知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。
日本で出産した子どもと一緒にアメリカに再入国したい
アメリカで生活しているとしても、さまざまな理由から、「出産は日本で」と考えている方もいるのではないでしょうか。その場合に問題となるのは、日本で生まれた子どもはどのような移民法上のステータスでアメリカに入国できるのか、という点です。親の国籍や移民法上のステータスによってオプションが異なるため、まず親の状況から見ていく必要があります。以下、さまざまな状況をケース・バイ・ケースでご紹介します。
父親・母親共に、もしくはどちらか一方が、アメリカ市民権を持つ場合
両親共に、もしくはどちらか一方がアメリカ市民権保持者の場合、ひとりの親を通じてアメリカ市民権を取得することになります。在日アメリカ大使館・領事館に出生届を出すことによって、アメリカ市民権を取得できます。アメリカ市民権の証明は、アメリカ政府が発行する出生証明書(Consular Report of Birth Abroad)によって可能となります。もちろん、子どもがアメリカに入国する際には、アメリカのパスポートを取得している必要があります。在日アメリカ大使館・領事館では、子ど もの出生届は誕生後速やかに行うことを推奨しています。詳しい手続きは、在日アメリカ大使館のウェブサイトをご参照ください。
父親・母親共に非移民ビザ保持者の場合
非移民(Non-immigrant)ビザは、グリーンカード保持者が取得しなければならない移民ビザではないという意味で、「非移民」と呼ばれています。いわゆる、アメリカ入国時に入国審査官に提示する「ビザ」です。駐在員であればLビザやEビザ、学生であればFビザなど、アメリカ滞在時の活動内容によってビザの種類が変わりますが、これらは非移民ビザというグループに分類されます。
Bビザなど一部を除いて、大方の非移民ビザには、家族が取得できる種類のビザが存在します。ただし非移民ビザで定義されている「家族」とは、配偶者および21歳未満の子どものみであり、親は含まれません。また、ビザの種類によって、家族用のビザの名称が違うことに留意してください。たとえば、主な申請者がF-1ビザであれば家族はF-2ビザ、J-1ビザであればJ-2ビザ、H-1BビザであればH-4ビザ、そしてLビザであればL-2ビザとなります。ですが、Eビザの場合は、家族も主な申請者と同じ名前のビザとなり、主な申請者がE-1であれば家族もE-1、主な申請者がE-2であれば家族もE-2です。
父親・母親がグリーンカード申請途中の場合
両親がグリーンカード申請途中で、日本に滞在中の場合、通常、その申請は在日アメリカ大使館を通じて行っています。この場合、グリーンカードが大使館を通じて発行されるのではなく、大使館から移民ビザという永住権者用の入国査証が発給されます。この入国査証発給前に子どもが生まれた場合、グリーンカードの手続きがまだ途中であるため、申請者の子どもとして途中からでも申請が可能です。子どもの誕生が入国査証発給後であったとしても、入国査証の期限内に移民ビザを持つ両親と共にアメリカ入国する場合、子どもにはグリーンカードが与えられます。
母親がグリーンカード保持者の場合
子どもの出生から2年以内に、母親と共に初めてアメリカ入国する場合、子どもにはグリーンカードが与えられます。ただし、母親がアメリカ再入国可能という要件を満たす必要があり、また母親にとっても子どもの産後初めてのアメリカ再入国である必要があります。この場合、長期間にわたりアメリカ国外に滞在していることが予想されますので、通常、再入国許可証を事前に取得する必要があります。
どのパターンも、親子関係の証明が要件のひとつです。また、子どもがいつから飛行機に搭乗できるかは、移民法とは関係なく、航空会社の規則によって決められていますので、事前に確認することを推奨します。