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コレってどうすればいいの?本帰国にまつわる疑問に専門家が回答

アメリカから日本への本帰国に関してよく受ける問い合わせ例とその回答を、(株)ライフメイツ/ライフメイツ社会保険労務士事務所代表の蓑田 透さんと尾崎会計事務所代表の尾崎真由美さんに紹介してもらいます。資産、税金、国籍、社会保障関係などは特に、専門的な知識や日米両国での手続きが発生するため、なかなか理解しづらいもの。心配なことがあれば専門家に相談すると安心です。

(株)ライフメイツ 蓑田 透さん (株)ライフメイツ/ライフメイツ社会保険労務士事務所代表。米国を始めとする海外在住者の年金申請、相談サービスを多数手掛ける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士として日本への永住帰国時および帰国後の生活のサポートや、海外在住者向けに日本の老親の終活に関する支援を行う。 ☎213-327-8650(北米) ☎03-6411-8984(日本) www.life-mates.jp

尾崎会計事務所 尾崎真由美さん 全米各地に個人・法人の確定申告、ペイロール業務、経理代行、税務コンサルティングの総合的な会計サービスを提供している尾崎会計事務所の代表。ワシントン州CPAとして、国際的な税金問題を専門に長年の経験を持つ。 ☎︎1-877-827-1040 info@1040seattle.com www.1040seattle.com

これまで住んでいた米国の住居を売却し、そのお金を日本へ送金して生活費や日本での家購入に充てたいと考えています。送金時に税金はかかりますか?

送金手続き自体に税金は発生しません。自身の口座間でお金を移動させるだけなので、所得が発生するわけではないからです。ただし送金の目的、時期、口座名義人等の状況によって所得や贈与が発生する場合(または発生するとみなされた場合)は納税の対象となります。特に日本帰国後は、税務上の日本居住者となり納税義務が発生するため注意が必要です。所得に該当するか自分で判断できない場合は、税理士など専門家に相談しましょう。

なお、日本では100万円以上の送金(送金、受け取り共に)の場合、銀行から税務署への報告義務がありますが、これによって税金が発生することはなく、個人の資産データとして将来の税務申告時に参照される可能性があるというだけです。また、日本帰国に航空機を利用する際、1万ドル以上の携行には税関申告が必要ですが、同様に税金は発生しません。

米国籍取得者ですが、日本国籍の喪失手続きはしていません。このまま日本へ永住帰国できますか?

できません。理由は米国籍取得者(日本から見ると外国人)が日本で住民登録して居住するには在留資格が必要なためです。在留資格申請には日本に戸籍がないことが条件となります。つまり、日本国籍をいったん放棄し、戸籍を喪失することで初めて在留資格申請手続きを進められるわけです。本来、日本人は米国籍を自ら申請して取得した時点で、喪失手続きをしなくても日本国籍は自動的になくなっているものとみなされます(国籍法第11条)。米国籍を取得したにもかかわらず、日本国籍の喪失手続きをせずに戸籍を残したまま日本で住民票を取得するのは違法なのでやめましょう。

米国に長年居住していましたが、日本へ本帰国後、医療保険(健康保険)や介護保険は利用できるのでしょうか? それまで日本で保険料や税金は一切払っていません。一定期間、保険料を払わないといけないなど、条件があれば教えてください。

すぐに利用できます。日本の社会保障制度は住民票の登録を基準に提供されます。外国からの転入者でも住民登録をすれば、その日から健康保険や介護保険などの社会保障サービスを受けられます。しかし一方で、加入した時点から毎月の健康保険料や介護保険料の支払い義務も発生します。60歳未満であれば国民年金保険料の支払いも必要です。

なお、日本では2021年3月よりマイナンバーカードを保険証の代わりに利用することができるようになりました。ただし初回は従来の保険証とマイナンバーカードを一緒に医療機関へ持参して登録する、当初は一部医療機関のみの対応で順次拡大していく、などの条件があるので、詳細は個別に医療機関へ確認する必要があります。

アメリカ永住者(グリーンカード保有者)で、現在は米国退職年金(Social Security Benefit)を受給しています。日本へ永住帰国し、グリーンカードを返納しても、引き続き受給できますか?

受給できます。住所と受け取り用の銀行口座はそのままにせず、個々の状況に応じて変更手続きをしましょう。郵送物含め、日本で生活費として受け取りたい場合、住所や口座の変更届が必要です。

グリーンカード(アメリカ永住権)の返納やアメリカ国籍の離脱を選択し、日本に本帰国する場合、税金がかかる可能性があるのはどのようなケースでしょうか?

過去5年の平均課税額が一定額以上(たとえば2015年は16万ドル以上)、または全世界にある資産の価値が200万ドル以上の場合は、離脱税(Expatriation Tax)の対象になります。「Form 8854」という書類を提出する必要がありますが、これを提出しなかった場合の罰金が1万ドルと非常に高額なので要注意です。

離脱税はIRS(米税務省)にとってみれば、居住者としての納税者に課税できる最後のチャンスです。今ある財産は保有しているにもかかわらず、売却したかのようにキャピタルゲインを計算して「みなし税」を課税されます。

過去5年の平均課税額が16万ドル以上というのは、たとえ妻あるいは夫だけがグリーンカードを手放すとしても、ジョイントで申告している場合はジョイントの税額が対象になります。そのため、グリーンカードを手放すということがわかった時点で、夫婦別に確定申告をするというのは税金対策のひとつとなります。

過去5年の確定申告を必ず済ませていなければいけないので、この時点でFBAR(外国銀行口座レポート)やFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)の報告が全て行われているか確認する必要があります。アメリカ国外にある資産が1万ドル以上の場合は、アメリカ政府に毎年FBARの報告をしなければいけません。もしも口座間で移動がある場合は年末の資産残高が5万ドル以上(あるいは年間での最高資産残高が7万5,000ドル以上)であればFATCAへの報告が必要になります。これは銀行口座のほか、満期型の保険の口座、証券、ゴールドなどの投資も対象で、残高が0であってもアクセスが有効な口座は全て含まれます。過去に漏れがあれば、修正申告などで対応します。

なお、個人年金の401kがあると納税が延期されますので、最大限にお金を入れておくというのはいい考えです。401kは、その資産を引き出した場合に課税対象となります。

離婚や帰任などによって、アメリカの永住権や国籍を放棄する方は少なくありませんが、人生において重要な出来事であると同時に、アメリカへの確定申告義務がなくなるなど税金にまつわる意味も出てくることを認識しておきましょう。

グリーンカードを保有したまま日本に帰国した場合、アメリカへの確定申告は必要ですか? FBARやFATCAについてはどうなりますか?

アメリカへの確定申告は必要です。また、FBARやFATCAについても報告しなければなりません。怠った場合は罰金となる可能性もあります。罰金回避の条件として、申告をしていなかったのが故意ではないこと(Taxpayers must certify that conduct was not willful.)がありますが、IRSが監査を始めれば罰金回避は難しくなりますので、過去の申告漏れがあれば監査の対象になる前に修正申告をしましょう。過去にさかのぼっての申告は煩雑な作業を伴いますので、まずは専門家に相談することをおすすめします。