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ポジティブなメッセージが伝わる 『Hidden Figures』

『Hidden Figures』
(邦題『ヒドゥン・フィギュアズ』

© 20th Century Fox

米国初の有人宇宙飛行計画、マーキュリー計画に関わったアフリカ系女性計算手らの奮闘する姿を描いた伝記映画。アカデミー賞の作品賞にノミネートされ、大ヒット上映中の作品だ。

1961年有人宇宙飛行でソ連に遅れをとったNASAの前身NACA(全米航空諮問委員会)は、宇宙競争の真っ只中。グループの長アル(ケヴィン・コスナー)は所内で才能ある者を集めており、その一人に数学に優れた才を持つキャサリン・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)がいた。彼女はNACAのアフリカ系女性計算手だけで組織された部門から、エンジニアのメアリー・ジャクソン(ジャネル・モナエ)と共にアフリカ系女性としては初のグループへの参加を果たした。しかし、部門に残った事実上のリーダー、ドロシー・ボーン(オクタヴィア・スペンサー)は、昇進も昇給も認められずにいた。

作家マーゴット・リー・シェタリーが著した同名ノンフィクションの映画化で、もちろん実話。舞台は「有色人種」はトイレもカフェテリア、コーヒーポットも別々、という宇宙飛行を目指す場とは思えない差別がまかり通っていた時代。そんな状況の中で、機会を与えられた3人の女性を中心に、彼女たちが差別の中で、それぞれの能力を発揮していく姿を描いていく。

ジョンソンが重いノートを持って、有色人種用トイレのある施設まで走る姿が何度も登場し、彼女らの置かれた状態の大変さが描かれるが、焦点は差別待遇よりも彼女のがんばる姿にあるので、作品のトーンは明るく快活。ポジティブなメッセージがストレートに伝わってきた。

アフリカ系女性の部門で与えられた仕事だけをしていたジョンソンは、「コンピュータ」と呼ばれ、IBMが導入されると解雇予定の使い捨て要員だった。もしこの抜擢がなけば、彼女の才能は埋もれたままだったろう。また機会を与えられても、上司の妨害や差別待遇のストレスを跳ねのけねばならない忍耐力が必要なことなど、本作を通して人種に限らず、差別の持つ非人間性や無意味さが分かりやすく描き出されていた。

ちなみに、ジョンソンは1953年から退職する86年まで宇宙開発に携わり数々の功績を残した。現在98歳。健在である。映画化に際して「なんで私のことなんか映画にするの?」と聞いたという。淡々と数式を説き続けた彼女らしい発言という気がした。

上映時間:2時間7分。シアトルはシネコン等で上映中。

[新作ムービー]

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。