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In the Same Breath「COVID-19 2つの大国の過ち」 〜注目の新作ムービー

注目の新作ムービー

中国と米国、政府が作り上げたうそ

In the Same Breath
(邦題「COVID-19 2つの大国の過ち / IN THE SAME BREATH」)

いまだに先行きが見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック。2019年末の発生が伝えられている中国武漢で何が起きていたのか、そして米国では。当時の武漢の様子とトランプ政権のパンデミックへの対応などを伝えるニュース映像を比較しながら2政権のうそを暴き出す、優れたドキュメンタリー映画を紹介したい。監督は中国生まれのナンフー・ワン。中国の一人っ子政策の現実を追ったドキュメンタリー映画「一人っ子の国」で、2019年のサンダンス映画祭ドキュメンタリー部門グランプリを受賞した気鋭の監督だ。

2020年1月1日、武漢は全市を挙げて新年の祝賀行事が行われ、テーマパークを思わせる壮大なイルミネーションに彩られていた。テレビでは朝から習 近平(シー・ジンピン)首相が中国の平和と繁栄を宣言。同じ日に、未知の肺炎についてうわさを広げたとして8人が罰せられたニュースも流れたが、誰も注意を払わなかった。ところが1月23日になると、武漢市は突如ロックダウン。街の様相は一変した。同じ頃、SNSには、病院が立錐の余地もないほど患者で埋まり、ある人はその場で倒れ、道端で死亡する人もいる映像の数々が投稿された。だが、それも政府によってあっという間に消されてしまう。

そんな導入で始まる本作は、報道が厳しく規制された中国で実際に何があったのかを、武漢の病院内部の様子やクリニックの防犯カメラの映像などを多用して、立体的に見せていく。驚くことに武漢では2019年12月時点ですでに新型コロナウイルスがまん延していたこと、そして重症化しても治療法がなく、病院が入院を断っていたこと、死者数も10分の1ほどに少なく報道していたことなどが、次々と明らかにされていく。にもかかわらず、中国政府は警鐘を鳴らした医師たちを罰し、「人から人への感染はない」と、うその報道を繰り返させていたのだ。

たまたま中国に帰省していたワン監督はまん延に危機感を抱き、映画化を決意。アメリカに戻った後、中国にいる撮影監督たちの協力の下、リモートで監督を続けるというユニークな方法で貴重な映像が集められた。中国で生まれ、アメリカで暮らすワン監督のような立場でなければ作れなかった作品だろう。

そして彼女は、米国の状況にも目を向ける。2020年初頭、「COVID-19は完全に抑え込んだ」などと言い続けていたトランプ前大統領や、3月に入ってすら「マスクは必要ない」と発言しているファウチ首席医療顧問の映像もある。トランプ前大統領については、COVID-19を軽視する言動が米国での驚異的なまん延につながったこと、チャイナウイルスと呼んでアジア系へのヘイトをあおったこと、そして現在進行中のマスク論争やワクチン論争という国民の分断を招いたことなどが、作品を通して苦々しく思い起こされる。

検閲がかかり、表現の自由がない中国に対し批判的なワン監督は、9年前に自由を標榜する米国へ移住した。だが、銃を持ってワクチン反対のデモに集まる人々を見て、誤った情報に操られている米国の人々の主張する自由を問う。果たして、中国と米国のプロパガンダにどれほどの違いがあるのだろうか。これは重要な提起である。

中国への批判的な映画を作るたびに中国の家族がトラブルに巻き込まれていると明かすワン監督。それでも真実に迫ろうとする勇気には脱帽だ。

In the Same Breath
邦題「COVID-19 2つの大国の過ち / IN THE SAME BREATH」

上映時間:1時間38分

写真クレジット:HBO

HBO Maxで視聴可能。

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。