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乳歯から精神疾患のリスクがわかる?〜健康な歯でスマイルライフ

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

乳歯から精神疾患のリスクがわかる?

母胎への過度のストレスは、後の胎児の精神障害を引き起こしやすくする可能性があることが、最近の多くの研究から示されています。しかしながら、胎内環境を手軽な方法で客観的に測るための検査対象は、ほとんどありませんでした。そんな中、イギリスのブリストル大学の研究チームは、70本の乳歯におけるエナメル質の成長線とその後の精神疾患との関係を調べ、興味深い結果を報告しました(JAMA Network Open 2021;4(11):29129)。今回はこの研究を中心に書いていきたいと思います。

研究の背景

アメリカでは今や、抗うつ薬が高コレステロール薬に次いで、処方せん薬交付の第2位になるほど精神疾患の増加は深刻です。学齢男子の7分の1がADHD(注意欠如・多動性障害)の診断を受けているほど、精神障害の罹患者数は多いのです。胎内環境は、後の精神疾患につながりやすく、妊娠中は過度のストレスを避けるべきであると多くの研究で明らかにされてきました。

乳歯や永久歯の一部には、エナメル質内にできる、出生線(Neonatal Line)と言われる成長線が存在します。これは、胎児の歯が成長している時に、出生時の胎児のストレスがエナメル質に刻まれるものです。今回の研究では、乳犬歯の出生線の幅とその前後の精神ストレス状態との相関を調べています。

妊娠中のストレスが子どもの乳歯に影響

計70人の子どもの抜歯された乳犬歯(5〜7歳、男48.7%、白人94%、ブリストル生まれ)が調査され、各々の子どもの出生前と出生期における妊娠中の精神環境(その子の妊娠中あるいは妊娠直後にアンケートで回答したものを使用。ストレスにつながる出来事、精神病理的既往歴、周囲の不利益状態など)を確認しました。

その結果、子どもの出生前、出生期の妊娠中に人生において強度のショックとなる出来事(自己申告)、人生を通しての精神的問題、あるいは妊娠32週で不安、うつの症状が高まった状態があった母親の子どもでは、有意に乳犬歯の出生線の幅が広いことがわかりました。一方で、出生前後に恵まれた環境にあった母親の子どもにおいては、乳犬歯の出生線の幅が狭くなっていました。

乳歯の出生線の幅を調べると、その子どもの母親が妊娠中、どんな精神状態に置かれていたかが反映されることになり、後の子どもの精神疾患リスクを測る一助になる可能性も出てきました。

まとめ

乳歯の出生線の幅が広いと子どもの精神疾患リスクが高い可能性があり、検査することで子どもの精神疾患の治療に役立てていけるかもしれません。まだまだバラつきが大きいので、今後もさらなる調査を続け、データを検討する必要があります。

乳歯を保存しておくと、DNAの抽出以外にも精神疾患のリスク判定など、さまざまなことに活用できるかもしれませんね。

福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748