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乳がんとお酒の関係〜女性の命を守るヘルスケア Vol.30

女性の命を守るヘルスケア Vol.30

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

乳がんとお酒の関係

今回はJapanese SHAREで臨床アドバイザーを務める乳腺科医の田原梨絵が、乳がんとお酒の関係についてお伝えします。


国際的ながん研究機関の報告では、アルコール飲料の摂取により乳がん発症リスクが高くなることはほぼ確実とされています。つまり、お酒を飲む方は乳がんになりやすいということです。

これは日本人を対象とした研究でも確認されており、上のグラフは日本人約16万人を対象に飲酒と閉経前乳がんの発症リスクを調べた研究結果です。飲酒頻度で見ると、全く飲まない人を基準とした場合、ほぼ毎日飲む人は1.37倍も乳がんにかかりやすく、飲酒量で見ると、エタノールの摂取量が1日0グラムの人を基準にした場合、23グラム以上では1.74倍も乳がんにかかりやすいということです。また、頻度と量が増えるほど発症リスクが上がる傾向が見られました。

では、お酒を飲むときにはどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか? まず摂取量についてですが、適切な量は性別や年齢、個人の体質により異なります。ひとつの目安として、厚生労働省では「節度ある適度な飲酒量」を純アルコールで1日平均約20グラムと定義しています。具体的にはビール中瓶1本、日本酒1合に相当します。ただし、乳がんの発症リスクは、飲めば飲むほど上がります。

また、お酒の種類やアルコール度数問わず、摂取するエタノールの総量が、乳がんの発症リスクに関連すると考えられています。これくらいなら安心という閾いきち値はありません。飲酒が乳がんに影響を及ぼす仕組みはまだよくわかっていない部分も多いのですが、アルコールの代謝時にできる毒性物質、アセトアルデヒドの発がん性が関係しているのではないかという説があります。

日本人は欧米人と比べ、このアセトアルデヒドの分解能力が低い体質の方が多いことが知られ、飲酒後すぐに顔が赤くなる方がその体質と考えられます。そうした方は、乳がん以外のがんについての研究でも、飲酒による発がんリスクがより高くなることがわかっていますので、飲酒の習慣がある方は量を控えたほうが良いかもしれません。飲酒後に顔色が変わらない方であっても、飲み過ぎはリスクを高めることになります。どちらにしても注意しましょう。

すでに乳がんを発症している方の場合はどうでしょう。お酒を飲むと乳がんが再発しやすくなるのでしょうか? これまでの研究では、飲酒によって乳がんが再発しやすくなったり、乳がんで命を落としやすくなったりする可能性は低いと考えられています。ただし、乳がんを発症していない側の乳房、温存手術で残した乳房については前述の通り、新たな乳がんを発症するリスクが上がることになります。乳がん発症経験の有無にかかわらず、お酒を飲む際には知識を持ったうえで上手に楽しみたいものですね。


乳がん大事典【BC Tube編集部】YouTubeチャンネルで、乳房や乳がんに関する正確な情報を発信中!

田原梨絵■
Japanese SHARE臨床アドバイザー、一般社団法人BC Tube理事を務める、ボストン在住の乳腺科医、MD。ダナファーバーがん研究所研究助手、MDアンダーソンがんセンターのリサーチ・インターンを経験。


【参考文献】

①World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research:Continuous Update Project. Diet, Nutrition, Physical Activity and Breast Cancer 2018.

日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版
Iwase M, et al. Int J cancer. 2021;148(11):2736-2747.


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ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、米国医療事情を日本語で提供。

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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。