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子宮頸がんの「予防」、していますか? 実は男性にも影響があります〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.28

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

子宮頸がんの「予防」、していますか? 実は男性にも影響があります

産婦人科専門医の鈴木幸雄です。1月は子宮頸がん予防啓発月間。今回は子宮頸がん予防について、女性はもちろんのこと、男性も知っておくべき内容をまとめました。

子宮頸がんにならないことを目指せます!

通常のがん予防は、早期発見を前提としたがん検診を行います。胃がん、大腸がん、乳がん、肺がん、子宮頸がんの5種類は、定期検診を受け、がんを早期発見すれば、進行する前の段階で対処できる可能性が高まります。健康で長生きするためのがん検診と言っても過言ではないでしょう。
一方、子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus/HPV)に感染することが原因。そのため、感染を防ぐことでがんの発症自体を防げるのです。

①HPVワクチン:がんが発症する確率自体を大きく下げる
HPVワクチンとは、ヒトパピローマウイルスの感染を予防するワクチンです。このウイルスは、主に性交渉によって感染し、がんの発症や性感染症の罹患につながります。ほとんどの人は一生に一度感染し、一部で持続感染状態(基本的に無症状)となり健康に影響を及ぼします。
がんを発症しやすい16型・18型、尖圭コンジローマというイボを作る6型・11型があり、現在の日本では、これら4種を予防する「4価ワクチン」が主流。ですが、この4月からは9種類のHPV感染を予防する、さらに効果の高い「9価ワクチン」が無料に(公費による定期接種)。9価ワクチンはすでに、アメリカほか多くの国で普及しています。

②子宮頸がん検診:たとえ、がんを発症しても早期発見!
子宮頸がんは二次予防(早期発見)のためのスクリーニングが確立されており、子宮頸部細胞診(Pap test/Pap smear)やHPV検査などの定期検診で早期発見できます。しかし、検診で見つかりにくいタイプも3割弱ほどあるため、HPVワクチンとコンビネーションで受けることが重要。子宮頸部細胞診は、日本では2年おき、アメリカでは3年おき、HPV検査を併用する場合は5年おきに受けるよう推奨されています。
2010年頃から各国で始まった子宮頸がん検診とHPVワクチンによる予防プログラムによって、今では多くの国で前がん状態の減少が見られ、がんの予防効果もきちんと示されるようになりました。こうしたプログラムをいち早く始めた豪州は、2028年までに子宮頸がんの制圧が見込まれることを発表しています。

子宮頸がんはどんな病気?

子宮の入り口(頸部)にできる子宮頸がんは、日本で年間1万1,000人が新たにかかります。がんになる手前の状態である「上皮内がん」を含めると約5万人が毎年かかり、40歳までの若い世代の男女がかかるがんの約半分に相当します。原因の99%はヒトパピローマウイルスなので、HPVワクチン接種による一次予防(がん発症自体を防ぐこと)が可能です。
アメリカでは子宮頸がんの女性患者よりも、同じくヒトパピローマウイルスを原因とする中咽頭がんの男性患者数が上回っており、まさに男性にとっても切実な健康問題。実は肛門がんなどもヒトパピローマウイルスが原因です。つまり、ヒトパピローマウイルスは男女共に無視できない発がん性のウイルスであり、米国を始め多くの国では男女がHPVワクチン接種の対象となっています。
日本では主に小6~高1相当(12~16歳程度)の女子のみとするのに対し、アメリカでは男女9~14歳が対象。「性交渉を持つ前に接種すること」が大切で、接種回数は日本では3回ですが、米国も含め世界基準は2回(半年間隔)です。米国の最新のデータによると、対象年齢の約77%が、少なくとも1回の接種をしています。「接種については、子ども本人に決めさせる」という意見も聞きますが、リスク・ベネフィットの意思決定を委ねるのは簡単ではなく、親の考えが大切になってきます。
子宮頸がんは、ワクチンと検診の2本柱でほぼ心配がなくなるがんです。改めて、皆さんにとって自分自身や家族を守る大切な手段であることを知ってもらえればと思います。


これだけは知っておいて欲しいポイント!
●子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルスは、男女関係なく、がんの発症に影響を及ぼす

●子宮頸がんの予防に必要なのはこの2つ! 15歳までのHPVワクチン接種 20歳以降の子宮頸がん検診

鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。Japanese SHARE臨床アドバイザーを務める。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。


SHARE 日本語プログラム

ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:​admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org

1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、米国医療事情を日本語で提供。


引用

  1. Hall MT, Simms KT, Lew J, Smith MA, Brotherton JM, Saville M, et al. The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study. The Lancet Public Health 2019 Jan;4(1):e19-e27
  2. Van Dyne EA, Henley SJ, Saraiya M, Thomas CC, Markowitz LE, Benard VB. Trends in Human Papillomavirus-Associated Cancers – United States, 1999-2015. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2018;67(33):918-924.
  3. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
  4. Pingali C, Yankey D, Elam-Evans LD, et al. National Vaccination Coverage Among Adolescents Aged 13–17 Years — National Immunization Survey-Teen, United States, 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2022;71:1101–1108.
1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。