女性の命を守るヘルスケア Vol.23
アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。
第23回 がんとライフスタイル
がんと診断されたことを、健康な人に打ち明ける難しさもさることながら、日本とは文化の違いがあるアメリカでは、その気持ちを共感してもらうことへのハードルの高さにも直面します。そんなとき、異国で同じ病気を経験した人たちと母国語で心情を話し合うことができれば、不安やストレスの軽減につながるのではないでしょうか。
Japanese SHAREは、がんと診断されたばかりの方から治療中の方、そして治療がすでに終わっているサバイバーの方を対象とした定期サポートミーティングを日本語で開催しており、今年で 11年目に突入しました。これまでに約2,000人の日本人、日系人が参加しています。
サポートミーティングの中では、がん経験者の食生活について質問を受けることがよくあります。ジューシング、ベジタリアン、ビーガン、マクロビなど、健康に良いと言われる方法は次から次へと登場します。「自分でコントロールできることは何かないか」と患者自身が模索し、たどり着くところが食事というわけですが、医師からは特別に避けたほうが良い食材のある場合を除き、「バランスの良い食事を」と勧められることがほとんどでしょう。特定の食事療法や食材に傾倒し過ぎると栄養が偏り、バランスを崩して結果的に健康を損ねてしまうとの懸念があってのことだと思います。
患者さんやサバイバーさんには、食事療法そのものに縛られて好きな食べ物を我慢したりすることで、逆にストレスになってしまわないようにとお伝えしています。ただし、自分の決めた食事療法が体に合い、気持ちが楽になるのであれば、また、好きな食べ物で心が穏やかになるのであれば、本人の決断を尊重し、治療との両立を前提にサポートしています。
また、「病気になる前と全く同じ生活に戻りたい」と話す患者さんも少なくありません。そんな方には、以前の自分の在り方が病気を招いてしまった可能性があるのではと、それまでの生活を振り返ってもらうようにしています。食事や運動だけではなく、1日の中でどれだけ自分のために時間をかけ、心身を癒してリラックスし、ストレスを軽減していたかを再確認することが重要です。病気になってから、自分の生活環境をどのようにリセットしていくかを考えることは、患者側に与えられた大きな課題のひとつだと考えています。
たとえば、がんを経験してから態度を改め、食事や運動など新しい生活習慣を取り入れると同時に、新たな気付きを得て人生の捉え方を見直す方もいます。一方で、治療を終えて以前のような忙しい日常に戻ると、家族や仕事にフォーカスした生活にシフトしていき、健康管理を含めた自分のケアを後回しにしがちという方もいます。サポートミーティングでは「治療が終わると病気のことを忘れて調子に乗ってしまい、定期検診のたびにヒヤヒヤする」と、笑いながら話すサバイバーさんもよく見受けられます。前述の食事療法もそうですが、がん患者は特定の何かにとらわれ過ぎず、心と体のバランスを整えながら、柔軟に生活していくことが求められるのでしょう。
そのためには家族や職場の理解が不可欠ですが、単身の方、子どもがまだ小さい方などは、自分のための時間を作ることさえままならない場合も多いのではないでしょうか。
患者さんやサバイバーさんには、Japanes SHAREのサポートミーティングに参加することで、同じ病気の経験者と心情を分かち合い、ひとりで悩むことなく、笑って生活できるようになって欲しいと心から思います。
ブロディー愛子■2013年に米国非営利団体、SHAREキャンサー・サポートに日本語プログラムを設立した、Japanese SHARE発起人。これまでにサポートした日本人、日系人の数は2,000人を超える。ニューヨーク日系人会理事でもある。国際コーチング連盟(ICF)認定ライフコーチ、アーキタイパル・コンサルタントとして活躍中。 www.alliswellcoaching.com
SHARE 日本語プログラム
ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org
1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、米国医療事情を日本語で提供。