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日本のHPVワクチン接種個別勧奨が約9年ぶりに再開

女性の命を守るヘルスケア Vol.16

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第16回 ​日本のHPVワクチン接種個別勧奨が約9年ぶりに再開

Japanese SHAREの臨床アドバイザーを務める鈴木幸雄です。今回はアメリカにいる日本人の皆さんに特に知って欲しい、がん予防のトピックを取り上げます。この話題は男性にもぜひ知って欲しいことで、女性の命を守るのと同時に、男性の命を守ることにもつながる内容です。婦人科がん専門医の立場から大切なことをお伝えできればと思います。

HPVワクチンとは、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus/HPV)の感染を防ぐワクチンです。HPVは主に性交渉によって感染し、がんの発症や性感染症の罹患につながります。ほとんどの人は一生に一度感染し、一部で持続感染状態(基本的に無症状)となり、健康に影響を及ぼします。

日本ではがんを発症しやすい16型・18型、尖圭コンジローマというイボを作る6型・11型の4つを予防する「4価ワクチン」が主流です。16型・18型のみの「2価ワクチン」も同等の予防効果があります。アメリカでは主に、この4型に加え、がん発症のリスクの高い別の5つの型を組み込み、より効果が高いとされる「9価ワクチン」を接種します。しかし、これは日本では無料接種の対象にはなっていません。

2010年頃から始まった、子宮頸がん検診とHPVワクチンによる予防プログラムにより、多くの国で前がん状態の減少が見られ、がん予防効果もきちんと示されるようになりました。いち早く開始したオーストラリアでは、2028年までに子宮頸がんの制圧を見込むことを発表しました。一方アメリカでは、男性の中咽頭がん患者が女性の子宮頸がん患者数を上回り新たな健康課題となっています。この中咽頭がんや肛門がんなどもHPVが原因となります。HPVは男女共に注意すべき発がん性のウイルスであり、米国を含む多くの国で男女がワクチンの接種対象になっています。

さて、子宮頸がんについて改めておさらいしておきましょう。子宮の入り口(頸部)にできるがんで、日本では年間約1万1,000人の新規患者(がんになる手前の状態である「上皮内がん」も含むと約5万人)がおり、40歳までの若い世代の男女がかかるがんの約半分が子宮頸がんです(上皮内がんも含む)。原因の99%はHPVのため、一次予防(病気を未然に防ぐ)が可能ながんです。二次予防(早期発見)のためのスクリーニングとして、子宮頸がん細胞診(Pap test)やHPV検査が確立され、定期検診での早期発見も可能です。しかし、検診で見つかりにくい腺がんというタイプも3割弱ほど見られるため、ワクチンと検診のコンビネーションが重要になります。

ワクチンが推奨されるのは、日本では主に12〜16歳の女児、米国では9〜14歳の男女児。このワクチンは「性交渉を持つ前に接種すること」が大切です。接種回数は、日本は3回ですが、アメリカも含む世界基準は2回(半年間隔)。米国では対象年齢の約65%が少なくとも1回の接種をしていますが、日本では対象世代への推奨がストップしていたため約1%にも満たない状態が長らく続いていました。しかし最近では、対象世代の接種率が10%を超えてきていると予測されています。私が2020年夏に行ったオンライン調査(約2,200名)でも8%程度の結果でした。

将来的に日本へ帰国予定で対象年齢の男女児がいる場合は、在米中にHPV関連がん予防効果が90%以上期待される9価ワクチンを接種しておくのも選択肢です。「もう大きいので子どもの意見を尊重します」と言う方もいますが、リスク・ベネフィットの意思決定を委ねるのは簡単ではありません。やはり、親の考えが大切になってきます。わが家でも対象世代の娘に接種を開始しました。

コロナ禍で受診控えも問題になってきている中、改めて予防医療が自身や家族を守る大切な手段であることを今一度お伝えしたいところです。

これだけは知っておいて欲しいポイント!

  • HPV(ヒトパピローマウイルス)は男女関係なく健康に影響を及ぼす
  • 日本でHPVワクチンの接種率が回復してきており、厚労省の個別勧奨は2022年4月から再開
  • 接種を逸してしまった世代も2022年4月から3年間、キャッチアップ接種が無料に(1997〜2005年度生まれ) ※日本在住者対象
  • アメリカ在住の接種対象世代(9〜14歳男女)には無料9価ワクチン接種の選択肢がある

鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。Japanese SHARE臨床アドバイザーを務める。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。

SHARE 日本語プログラム

ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:​admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org

1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。


引用:

  1. Hall MT, Simms KT, Lew J, Smith MA, Brotherton JM, Saville M, et al. The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study. The Lancet Public Health 2019 Jan;4(1):e19-e27
  2. Van Dyne EA, Henley SJ, Saraiya M, Thomas CC, Markowitz LE, Benard VB. Trends in Human Papillomavirus-Associated Cancers – United States, 1999-2015. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2018;67(33):918-924.
  3. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。