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広がり続ける格差

┃ 広がり続ける格差

『東京格差/浮かぶ街・沈む街』(中川寛子著、ちくま新書)は、2000年以前、2000年以降から現在、将来に分けて東京近郊の「街の価値」の変遷を検討する。便利な街、憧れの街(ブランド)、住民サービスが手厚く住みやすい街など、さまざまな指標で選ばれてきた都市の住環境。今後は災害に対する強さ、自治体の税収を左右する住民の年齢構造など、将来の持続可能性が街の「魅力」につながる時代となっていく、としている。

すでに人口減少の影響が出ている地方都市と違い、東京近郊エリア(本書で取り上げられているのは東京駅から主に40キロ圏)の格差はこれから如実に出てくるという。「住む」という一機能だけを持つ街、住人が均質化している街、その状態が長い間固定されている街、そうした「動きのない」街が今後、高齢化と共に沈んでいく危険性が高い、と警告する。

『老いた家 衰えぬ街』
住まいを終活する
野澤千絵(講談社現代新書)

全国各地で「空き家問題」が社会的な関心事となっている。『老いた家 衰えぬ街/住まいを終活する』(野澤千絵著、講談社現代新書)では、空き家の実態を調査していると、所有者自身が、対応したくても対応が困難な、複雑な理由を抱えていることがほとんどだという。著者は、親世代から相続後、処分するのをためらい「今はそんなに困っていないし、とりあえず置いておこう」となったままの実家を「問題先送り空き家」と名付けている。

今ある街を、将来世代にどうバトンタッチできるか、個人で、社会全体で取り組むべき「住まいの終活」の第一歩を提唱する。

『アンダークラス』
新たな下層階級の出現
橋本健二(ちくま新書)

『アンダークラス/新たな下層階級の出現』(橋本健二著、ちくま新書)は、将来の日本を考えるうえで避けては通れない、新しい階級社会の構造、特に「アンダークラス」と呼ばれる労働者階級の底辺について、データを基にその実態と窮状を明らかにしていく。従来の「資本家階級、中間階級、労働者階級」という階級のうち、労働者階級の底辺に、「アンダークラス」という階級が出現している、としている。

著者の算定ではアンダークラスに当たる人々は930万人いるという。その人々の平均年収は186万円となり、年収は年々減少し続けている。低賃金のアンダークラスの存在を前提として成り立つ経済の仕組み、巨大なアンダークラスを生み出す社会の仕組みをこのまま放置しておくと、日本社会は間違いなく危機的な状況を迎える。今、安定した職に就いている人々も、いつアンダークラスに転落してもおかしくない。他人事ではなく考えていくべき課題だと警告する。

 

┃ 宗教と熱狂

2018年は明治維新から150年目という節目の年に当たり、明治維新に関係する新書が多数刊行された。その華々しい「明治維新」の物語で、詳しく語られることがないというのが「廃仏毀釈」についてだと『仏教抹殺/なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(鵜飼秀徳著、文春新書)の著者は言う。

明治新政府は天皇を中心とする祭政一致の国づくり、神道国家を目指したため、長い歴史の間、神道と混じり合ってきた仏教を明確に切り分ける必要があった。神社と寺社を分離する神仏分離令という一連の政策が出された後、市民を巻き込んだ激しい仏教排斥運動は、新政府のコントロールをも超え、文化財破壊にエスカレートしていった。ジャーナリストの著者は僧侶としての顔も持つ。日本各地に足を運び、仏教迫害という「黒歴史」の痕跡をたどる。

『巡礼ビジネス』
ポップカルチャーが観光資産になる時代
岡本 健(角川新書)

アニメ映画など、物語の舞台となった場所に多くの人が訪れる、「アニメ聖地巡礼」という行動は、従来の「観光」をどう変えていくか。『巡礼ビジネス/ポップカルチャーが観光資産になる時代』(岡本 健著、角川新書)では、「観光学」と「メディアコンテンツ学」の両面から、アニメや映画が中心となるポップカルチャーが、いかに観光「資源」となっているか、現状の課題点、将来あるべき姿も含めて考察する。

アニメに限らず、ドラマや小説の舞台をめぐったり、作者ゆかりの地を訪ねる「コンテンツ・ツーリズム」は、観光ビジネスにおいて重要な要素となる。これまでは観光資源と考えられなかったような場所に多くの人が集まると、地域住民とのトラブルなどマイナス面も、もちろん起こり得る。国内外の観光客に向けた情報の発信方法や地域でのルール策定なども重要だと提案している。

※2018年12月刊行から(次号につづく)

 

連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。