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シアトル教育特集2017年版「日本式?それともアメリカ式?」

 

日本教育の良さ

いい先生はみんな、厳しかった

ソコリック奈緒子先生

レイシー市にある小学校の音楽クラスに、日本式スパルタ教育を導入しているソコリック先生。受け持ち児童は、授業前にきちんと整列して音楽室に入室させる。授業中の合奏では、演奏の乱れを決して聞き逃さない。しかし頭ごなしに訂正はせず、子どもたちに問題点を問いかけ考えさせる。そんな情熱あふれる授業が評判のソコリック先生が、アメリカに日本式スパルタ教育を取り入れた意味を語ってくれた。

取材・文:渡辺菜穂子

スパルタ教育について

アメリカでは「楽しくないと子どもが食いつかない」という理由で、「楽しさ」に重点を置く傾向があります。音楽の授業なら、みんなで円を作って、歌を歌って、ゲームをして、勝った人を褒めて、終わりです。

しかし私はそんな授業に魅力を感じず、楽譜の読み方も演奏テクニックもビシバシ教え、新しいことをどんどんやらせます。パーティーの「楽しさ」ではなく、厳しい修行により何かを習得した「楽しさ」を教えたいのです。

ワシントン州には学年ごとの習得項目が定められた規定がありますが、いつもそれ以上のことをやらせます。例えば、「1年生でドレミを歌えるようにしましょう」という規定通りに教えていたら、1年生の終わりには半分ぐらいの生徒しかできるようになりません。でも、それをキンダーからやらせれば、できる子は高度な技術が学べて退屈しないし、できない子も2年の猶予があるので、1年の終わりには完璧になっています。

周囲からの反発

以前在籍していたイェルム市の小学校は児童の95%が白人でした。私のことを中国人だと思って「チャイニーズの先生が急に私の子どもをビシバシと教え出した」と、学校に乗り込んでくる保護者もいました。当時の校長先生には「あなたのティーチングスタイルを受け入れるのに、ずいぶん時間がかかったわ」と言われましたし。今の学校の校長先生にも「小学生だし完璧にできなくてもいいのよ。もっとリラックスして」と言われます。

でも私は、完璧を求めないで、どうやって子どもが納得いくようなパフォーマンスができるのかと思います。「ここまでしか飛ばなくていいよ」と言ったら、子どもはそこまでしか飛ばないけれど、「高く飛べ」と言えばもっと遠くまで飛べるのです。

子どもたちの反応

「難しい」とか「無理」などの反発はいつもあります。でも、できたときに「ほら、できたでしょう?」と言うと子どもも嬉しくなり、結局は折れてくれます。情熱を持って教えれば、必ず子どもには伝わります。

最近では、できるようになった子をよく褒めるようにしています。日本の教育は、できない子を取りこぼさないように、下から上に持ち上げていくようなトコロテン式です。でも、上から出てきたトコロテンを褒めないのです。そこをしっかり褒めてあげると、子どもたちのやる気につながります。日本の下から押し上げる教育と、アメリカの褒め倒す教育を両方取り入れることで、より良い教育が提供できるのだと思います。

スパルタ教育を取り入れたきっかけ

セントラル・ワシントン大学で修士号を取得中に、ピアノクラスを教えていた時の体験がきっかけです。私のクラスはすごく人気で希望者が多かったのですが、なぜかと言うと全員合格させていたからです。しかし、ある日校長先生から、「君のクラスはとても人気があるけれど、生徒が将来『あの先生はいい先生だった』と思い出すのは、厳しい先生だよ」と言われました。確かに、自分自身を振り返ってみても、優しくて大好きだった先生もいるのですが、「いい先生」は厳しい先生でした。そこで私は「いい先生」になりたいと思い、教え方が逆転しました。急にスパルタになって、ナチスと呼ばれるように(笑)。

教育理念

私の教育目的はプロの音楽家を育てることではなく、音楽の授業を通して、子どもたちが目的を達成する方法を学ぶ手伝いをすることです。何か達成した時の喜びを知っていれば、将来自分の好きなことに出会った時、目的を設定し、修行を積み、成し遂げることができます。

また、子どもたちにはグローバルな大人になってほしいと思っています。まずは自分自身を知って、他者や他の世界との違いを知って、子どもたちが、自分は「アメリカ人」とか「ワシントン州民」ではなく、「グローバル市民」だと言ってくれたらいいと思っています。

ソコリック奈緒子先生
熊本県出身。2歳半からピアノを習う。高校生の時にロータリー財団奨学金にてマーサーアイランドの高校に交換留学。 「交換留学中に受けたピアノレッスンが楽しく、その時の先生に勧められて、ピアニストを目指しアメリカで本格的な音楽教育を受けようと進学しました」
ワシントン州立大学で学士を、セントラル・ワシントン大学で修士号(ピアノパフォーマンス)を取得。2006年にイェルム市プレイリー小学校の音楽教諭に就任、2016 年からはレイシー市サウスベイ小学校の音楽教諭に。音楽クラスを受け持つほか、合唱クラブの指導など幅広い活動をしている。
「ピアノで博士号を取るつもりだったのですが、ちょうど教員免許を無料で取れるプログラムがあったので、それを利用して小学校の教員になりました。実は小学生の頃から音楽の先生になりたかったのです。私の通っていた小学校は教育大学附属で、先生の卵たちが大勢いて、いろいろな先生に出会いました。校長先生は大学の教授で、集会の時のお話もすごく良かった。先生は人間として素晴らしい人が多く、そういう人になりたいと思っていました」

 

大村昌弘元在シアトル日本国総領事の帰任に向け、児童が日本語で『ふるさと』を歌い、ビデオメッセージを贈った。総領事も思わずホロリ

サウスベイ小学校

授業の始まりに児童全員がアメリカ国家を斉唱。「グローバルとはまず自分の国を学ぶこと」

厳しいながらもユーモアあふれるソコリック先生の授業

カレン・フレイザー元ワシントン州上院議員の退任にあたり、児童を連れてコーラスのサプライズを贈った

『うらしま太郎』のミュージカル劇は、台本から歌の指導、小道具制作まで全てソコリック先生によるもの

 

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シアトルで受けられる日本の教育

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北米シアトル在住のライター/編集者。現在はフリーランスとして、シアトル情報全般に関わる取材&執筆を引き受けている。得意分野はアート&エンターテインメント、人物インタビュー、異文化理解。元『ソイソース』編集部員。ピアノ、さる、旅、日本語の文法分析が好き。