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特集 シアトルの若手日本人シェフ

日本食文化が発達する街・シアトルに新しい風を起こす、期待の若手シェフたち。今回は相馬睦子さん、對馬賢一朗さん、中島正太さんの3人に、料理にかける思いを聞きました。

取材・文:小村侑子、寺島伶菜、大住磨緒

 


「幸運が幸運を呼ぶ、そんなそばを届けていきたい」
Kamonegi / そば職人
相馬 睦子さん

そうま むつこ
■アート・インスティチュート・オブ・シアトル卒業後、マディソンの「ハーベスト・バイン」などでシェフを務める。日本へ戻りソムリエ免許を取得した後、2010 年にそばの修行を開始。クールジャパン政策により、ロサンゼルスでそばのポップアップに従事。現在はシアトル近郊でそばのポップアップを行う。鴨せいろとウニが大好物。

2013年にシアトルで初めての手打ちそばレストラン「Miyabi 45th」をオープンしたシェフ、相馬睦子さん。現在は「Kamonegi」の屋号で、シアトル近郊の人気レストランと提携したポップアップイベントを定期的に開催し、打ちたてのそばを提供している。

石臼で挽いた伝統的なそば粉

「ほら、これがそばの実です」。相馬さんは取材に応えながら、そば打ちの様子を目の前で見せてくれた。「石臼(いしうす)で挽くと外側の黒い殻が割れて、中から真っ白い粉が出てきます」。自宅に作られたそば打ち専用のスタジオには、日本から運んできた石臼が置かれている。アメリカのローラー挽きでは殻ごと粉砕されるため、そば粉は黒くなり、口触りもゴワゴワになってしまうのだとか。大きなボウルの中の粉は黒い殻が取り分けられて、きれいな明るい色をしている。「そばの実って本当は穀物じゃなくて、フルーツの種なんですよ。だからそばはすごく健康的です。グルテンフリーでタンパク質が豊富。今のアメリカのニーズにぴったり合っていると思います」

ユニークな多国籍料理

ポートランドのフードフェアにて ホタテとかいわれ大根のかけそば

料理人を志したのは高校生の時。寿司屋でのアルバイトを通して、初めて料理を学んだという。「何もかも楽しかったですね。茶碗蒸しを作ったり、イクラを漬けたり。ものを作るのはこういうことなんだって分かりました」。高校卒業後に渡米し、カリフォルニアの大学からシアトルの調理学校、アート・インスティチュート・オブ・シアトルへ編入。マディソンのスペイン料理店「ハーベスト・バイン」、パイクプレイスのフランス料理店「シェシェ(現在は閉店)」でシェフとしての経験を積んだ。「私の料理って、スパニッシュらしさやフレンチらしさがあって、ちょっと変わってるんです。それを気に入って食べに来てくださるお客様がたくさんいますね」

シアトルで初めての手打ちそばを伝える

つるつるの打ちたてそば相馬さんが作る二八そばとはそば粉8小麦粉2の割合で配合されたものそばの風味と喉越しが最も良く感じられるバランスなのだとか

相馬さんのそばのルーツは、おばあちゃんが作る田舎そばだ。「幼い頃から祖母のそばを食べて育ちました。アメリカに来て手打ちそばが恋しくなったから、私も家で打てるようになりたいと思ったのがきっかけです」と語る相馬さんは、 2010年に日本でそば打ちの修行を開始。製粉所を併設する学校に入り、毎日そばを打ち続けた。2013年からウォーリングフォードの日本料理レストラン「Miyabi 45th」のシェフとして手打ちそばを提供した。「その頃シアトルで手打ちそばを出す店はなかったのですが、意外にも抵抗なく受け入れてもらえました。食べたお客様はみんな『なんだ、おいしいじゃないの』って」

日本で学んだ味を守りながらも、見せ方は工夫しているという。そばを知らないアメリカ人にも楽しんでもらえるように、チャーシューを入れてらーめん風にしたり、ごま油をたらしたり。一番人気のぶっかけそばを作る時は、特に見た目に気をつけるのだそう。

意外な組み合わせ タイカレーせいろ

シアトルならではのローカルなそば作り

NAKAでのポップアップにて和牛松茸そば

現在は「Kamonegi」の屋号で、シアトルエリア近郊のシェフと協力したポップアップを定期開催している。前回は韓国フュージョン、その前は懐石フュージョンと幅広いジャンルで、その度に全く違ったメニューを生み出している。「Kamonegi、つまり『鴨がネギをしょってくる』は『良いものがさらに良いものを呼ぶ』という意味です。幸運が重なる、とってもおいしい言葉でしょう?」

これからはよりローカルなそば作りを目指し、中でも二八そばの「二」の部分、小麦粉にこだわっていきたいという。「ワシントン州は小麦の名産地で、昔ながらの改良されていない小麦粉がたくさんあります。栄養価が高くて、味も全然違う。今は色々試して研究しています」と言って、小麦粉が入った袋をいくつも見せてくれた。小麦粉、そば粉、そして付け合わせの天ぷらで使う野菜にもローカル産を選び、地産地消のそばを提供するのだと目を輝かせる相馬さん。彼女にしか作り出せないユニークな料理に、今後も目が離せない。

そばのポップアップレストラン
Kamonegi

期間限定のポップアップレストランで、そばを中心としたコース料理が楽しめる。毎回異なるレストランでバラエティに富んだメニューが提供されるのが魅力で、固定客も多いのだそう。昨年12月には「NAKA(現在Adana)」の中島シェフとのコラボレーションによる懐石そばコースが人気を博した。ポップアップの最新情報はKamonegiのFacebookをチェック! 年末には年越しそばの販売も行っている。

www.facebook.com/kamonegiseattle

 

 

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「シアトルで最先端の和食を」公邸料理人 對馬 賢一朗さん