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イラストレーター湯浅 望さん〜全ては思った時がタイミング

2019年にニュージーランドへ渡り、海外生活3年目を迎えた湯浅 望さん。イラストレーターとして人気ブランドとのコラボレーションや雑誌のイラストを手がける傍ら、自然の素材に華やかなイラストを組み合わせたインスタグラムでの発信が話題。移住までの裏話や現在の暮らしについて話を聞きました。

取材・文:本田絢乃 写真:本人提供

湯浅 望■東京都出身。武蔵野美術大学油絵科中退後、ファッションスタイリストアシスタントを経てPR会社に勤務。イラストレーターとして独立後は、水彩絵の具や万年筆で描く女性らしくファッショナブルなイラストが評判となり、雑誌や書籍を始め、国内外のさまざまなブランドとコラボレーションを展開。近年は、植物やフルーツなどを使ったミックス・メディア・アートの制作にも精力的に取り組み、表現の幅を広げている。インスタグラム:@joetonozomi

人との出会いがつないだイラストレーターへの道

伊勢丹新宿店とのコラボレーションイラスト

「最初はイラストレーターになるつもりはなかったんです」と、笑いながら話す彼女のキャリアは個性豊かだ。浪人して武蔵野美術大学に入学したが、半年で中退。「絵は好きだったけれど、浪人生活で四六時中描いていたらそれで満足してしまって。高い学費を払ってまで同じような生活を4年間も続けるのはなんか違うなと思ったんです」。辞めた後は、好きだったファッションの世界へ。スタイリストのアシスタントを3年経験し、PR会社で働き始めると転機が訪れた。コスメのセレクトショップに勤める知人がウェブ・ページの挿絵を描ける人を探していて、なりゆきで仕事を受けることになったのだ。それが思いのほか評判が良く、次々と仕事につながり、イラストレーターのキャリアがスタートした。

ポートフォリオとして活用しているという彼女のインスタグラムを見ると、自然の風景や草花とイラストを組み合わせたミックス・メディア作品の数々が目に飛び込んでくる。 もともとは水彩画が専門。最初は筆を使って、ナチュラルな水彩のイラストを描くことが多かったそう。時代の流れに合わせてiPadを使ったり、草花を取り入れてみたり、万年筆を使った線画を書いたりと、さまざまな手法を試すようになった。「毎日が実験です。私はアーティストではなくイラストレーターだから、クライアントの要望にあったものを描きたいし、期待以上の提案もしたい。パリコレを見るなど常に研究し、感性を磨くようにしています」

子育てが移住の決め手

放課後は庭から続く海で遊ぶのが日課の兄弟

昔から英語を勉強することが好きだった。高校時代にはイギリスへの短期留学も経験。ずっと海外で暮らしてみたいという気持ちはあったが、行動に移すきっかけとなったのは、当時暮らしていた東京の下町で出会った多国籍の友人たちだ。多様なルーツを持つ彼らと交流を深めているうちに「子どもには文化の多様性をもっと感じて欲しい」という思いが強くなった。ニュージーランドを選んだのは、友人の口コミから。縁もゆかりもない土地だけれど、「なんかいいかも」という勘を頼りに移住を決めたと明かす。

お気に入りのアイスクリームショップで息子たちと

「実際住んでみて感じるのは、治安も良く、人々もフレンドリーで、何より自然に囲まれた環境が子育てをするには最高の場所だということ。ニュージーランドは国を挙げて移民を受け入れる体制を整えていて、英語圏では比較的ビザも取りやすい。とりあえず行ってみよう、という方には最適ですよ!」と望さん。ビザについては、「私は子どもと親子留学制度を利用し、夫は現地で仕事を探して労働ビザを取得しました」。学生ビザの準備中に次男の妊娠が発覚するという、うれしいハプニングもあった。出産して2カ月後にはニュージーランドへ。驚くほどのバイタリティーだ。「先延ばしにしたらいつまで経っても移住できないと思って、気合で渡航(笑)。でも、情報収集に2年ほど費やし、逆算して予定表はしっかり作っていましたね。ビザ取得は書類が不備で戻ってきたり、ホリデーが重なると手続きが2カ月滞ったりするので、計画性は重要です」

ニュージーランドの大自然が教えてくれた環境問題への意識

海外移住の醍醐味と言えば、新しい価値観に出合えることではないだろうか。望さんが移住していちばん変化を感じたのは環境問題への意識だそう。

季節の花々をドレスに見立てた人気のシリーズ

「日本で環境問題の話をすると、意識が高い、ちょっと面倒くさい人と思われてしまう。でもこっちでは、ご近所さんやママ友と日常の会話の中で環境問題について話すことも多いんです。エンターテインメントが少ない分、自然と共に生活しているから、そういう感覚が根付いているんですよね。夫は日本でコンビニ飯ばかり食べているような人だったけれど、ニュージーランドに来てからはペットボトル飲料すら買わなくなりました」

8歳の長男、2歳半の次男も環境への意識が自然と身に付いている。「環境汚染のことを学校で習ったあとで海に遊びに行くのが日常。目の前に自然があるから、自己投影しやすいんだと思います。このきれいな海が汚れちゃうのは悲しいって言って、長男は積極的に地域のビーチ清掃活動に参加するようになりました。ニュージーランドに来て良かったなと思います」

フリーランスとして海外で働くこと

現在、望さんは主に日本企業をクライアントとして働くが、不便はないと言う。「コロナ禍でオンラインが当たり前になり、便利になりました。気軽にZoomでコミュニケーションできるようになったのはありがたいですね。日本との時差もプラス3時間なので、ほとんど影響はありません。むしろ子どもたちを寝かしつけて落ち着いた夜8時が日本の夕方5時なので、『おっ、まだ仕事できるな』って感じです(笑)」

美容雑誌MAQUIAマキアに掲載されたアートワーク

イラストレーターの仕事は、インスタグラムや人とのつながりから舞い込むことが多く、自ら営業したことはほとんどないそう。「移住して3年、英語にも慣れてきたので海外のクライアントも増やしていきたい。素敵なプロダクトを作っている画材メーカーとコラボしたいというのが今の目標。イギリスの画材メーカー、ウィンザー&ニュートンなんかは憧れですね」

今後のビジョンについても「もちろん、ビッグメゾンと仕事をしてみたいという憧れはあるけれど、私が描くことでそのブランドの価値が上がるような存在になることがいちばんうれしい。フォロワー数が多いから、今話題の人だからという理由ではなく、私の描くイラストによってお互いの価値が高められるような、そんなイラストレーターでありたい」と語ってくれた。