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ビビアン・シェーさん〜ダリ・ディベロップメントUSA

6月、シアトル日本町に誕生したKODAコンドミニアム。開発を手掛けたのは、台湾の大手不動産ディベロッパーであるダリ・ディベロップメントです。同社創業者一家の長女として北米オフィスのマーケティング・マネジャーを務めるビビアン・シェーさんに、シアトルでの不動産開発についての思いを聞きました。

取材・文:室橋美佐
写真提供・協力:DA LI Development USA

ビビアン・シェー(Vivian Hsieh)■台湾・高雄出身。1998年に家族でカナダ・バンクーバーBCへ移住し、中高を経て2008年にブリティッシュ・コロンビア大学でフード・サイエンス学士取得。2019年には英国スコットランドの名門、エジンバラ大学のビジネススクールでMBAを取得した。医薬品・健康食品メーカーで営業マーケティングに従事した後、2020年にシアトルへ移住して現職に就く。

インターナショナル・ディストリクトへもっとたくさんの人に来て欲しい

17階建て201戸のKODAコンドミニアムは、ダリ・ディベロップメントが北米市場に進出して最初に取り組んだ大型不動産開発プロジェクトとして完成した。ビビアンさんによれば、アジア圏の不動産会社がシアトル市内で本格的な不動産開発を行うこと自体、おそらく初めてだそう。「だからこそ、インターナショナル・ディストリクトのコミュニティーと誠実に、正直に向き合い、これまでにないものを生み出したいと考えました」

KODAコンドミニアム7階のゲストスイート

リンク・ライト・レール、アムトラック、サウンダー・トレイン、そして多くのメトロバスが乗り入れるチャイナタウン・インターナショナル・ディストリクト(C-ID)駅は、今やシアトル地域のトランジット・ハブのひとつとなっている。2023年にはベルビュー、レドモンド直通のリンク・ライト・レール新線も開通する。KODAコンドミニアムが建つのは、そんなC-ID駅のまさに目の前だ。「会社の幹部チームでこの土地を訪れた際に、将来性を強く感じました。日本同様、台湾でも駅前開発はとても一般的です」と、ビビアンさんは言う。

その土地は、かつて宇和島屋シアトル1号店があった場所で、本誌発行人で元宇和島屋CEOのトミオ・モリグチが経営する不動産会社、フジマツ・コーポレーションから売却された。「このプロジェクトをインターナショナル・ディストリクト全体の活性化につなげたいと話すトミオの熱意を受けて、これまでとは違う層の住民を呼び込めるような新しい住宅スタイルを目指しました」

KODAコンドミニアム1階ではアジア系レストランやカフェがオープン予定ダウンタウンとの動線に新店舗ができることでインターナショナルディストリクトのにぎわいを取り戻せたらとビビアンさん

2019年3月に行われたKODAコンドミニアムの施工セレモニーでは、開発反対派がデモ活動を行うという一幕もあった。反対派の意見は、高級コンドミニアム建設が住宅価格高騰を招いて既存の賃貸住民が押し出されるのではないかという、ディスプレイスメントの問題を懸念するものだった。一方で、多様な経済的バックグラウンドを持つ住民が共生するコミュニティーを歓迎する声も聞かれた。

階の共用スペースにはガーデンドッグパークジムヨガスタジオなどを完備

現在、インターナショナル・ディストリクトでは、住宅、オフィス、店舗などが集まる複合商業施設の建設が次々と進んでいる。その背景には、シアトル市が2017年に制定したマンデトリー・ハウジング・アフォーダビリティー(MHA)がある。住宅価格高騰への対策として、低所得者向け住宅を一定以上の割合で併設することを条件に、ビル開発の高さ制限を緩めた条例だ。ダリ・ディベロップメントもこの条例の下、400万ドル以上をシアトル市の住宅サポート・プログラムへ支払い、開発プロジェクトを進めた。

インターナショナル・ディストリクトではパンデミック宣言直後に人通りが激減し、治安や商店街の経営が危ぶまれるような時期もあった。しかし最近では、C-ID駅周辺を中心に活気が戻ってきている。リンク・ライト・レール新線が通れば、イーストサイドからの人流も増えるだろう。「多文化共生社会が確立されていて、おいしいレストランもたくさんある、とても魅力的な街です。地域の再開発を機に、もっと多くの人がインターナショナル・ディストリクトを日常的に訪れるようになるのでは」と、ビビアンさんは期待を寄せる。

ロビーや石庭などさまざまな場所に和のテイストが

子ども時代から見てきた両親のビジネス

ビビアンさんは、C-IDビジネス・インプルーブメント・エリア(商店街活性化組合)のボード・メンバーも務めている。「商店街に家族経営のスモール・ビジネスは欠かせない存在です」と、ビビアンさん。「80年代、台湾・高雄で両親が最初に経営していたのは、町の小さな文具店でした。経営者として常に何かを学びながら奮闘する両親の背中を見て育ち、大変さは身に染みてわかります」。ビビアンさん自身も起業経験を持ち、コロナ禍でやむを得ず閉業するまでは、フレッシュ・ジュース販売店を経営していた。

KODAコンドミニアムは、商業不動産開発協会(NAIOP)のワシントン州チャプターから2021年ピープルズ・チョイス・アワード
を受賞。写真は、授賞式パーティーで、開発チームメンバーと

ビビアンさんの父親でダリ・ディベロップメント創業者のジェームズさんが、住宅開発ビジネスに乗り出したのは1990年代のことだ。2006年にダリ・ディベロップメントを設立し、現在では、高雄、台北、台中、台南の台湾4大都市で数々の不動産開発を行う。ビビアンさんは「台湾で暮らしていた小学生の頃、弟2人と一緒に両親の仕事をよく手伝っていました。住宅展示場でお客さんのふりをするのも私たちの仕事でした。恥ずかしがらずに誰とでも話すこと、堂々と振る舞うこと、積極的に人と関わることなどを学べたように思います」と、当時を振り返る。半導体ビジネスが急成長している台湾の不動産市場は、現在も活況だと言う。

家族でカナダ・バンクーバーBCへ移住したのは、ビビアンさんが中学に上がる時期。「子どもたちにはベストな教育環境を与えたい」という両親の強い思いからだった。父親のジェームズさんは、会社がある台湾とカナダを往来しつつ、1990年代後半にはシアトル地域でも小規模な不動産投資を始めた。母親はカナダに来ても変わらずに活動的で、寺院での集まりに参加するなど、現地社会で交友関係を広げていた。成功を収めた創業者一家の一員ながら全く気取るところのないビビアンさんの物腰の柔らかさは、両親のビジネスマインドを受け継いでのものなのかもしれない。

アメリカ不動産業界での挑戦

ビビアンさんの弟2人は大学でビジネスを学んだ後、すぐにダリ・ディベロップメントへ入社し、家業を支えるようになった。一方のビビアンさんは、大学でフード・サイエンスを学び、家業とは直接関わりのない医薬品・健康食品メーカーに勤務していた。「食の安全や栄養学に興味があります。台湾と北米の食文化の違いを目の当たりにした子ども時代の記憶が影響しているのかもしれません」

最上階のルーフトップテラス眼下にはシアトルの街の展望が広がる

前職でマーケティングや物流について学んだことは、今の仕事に生かされていると話すビビアンさん。食の分野に携わる中で環境問題への意識も芽生え、持続可能な不動産開発へと意欲を向ける。「日本式に『カイゼン』を常に念頭に置き、無駄のない、より効率的な方法を模索し、環境に配慮した方法に変えられる部分はないか検討しています」。国連が提唱する持続可能な開発目標「SDGs」の取り組みが加速するのは、不動産業界も同じだ。車移動を前提とした従来の住宅開発から、サステナブルな街づくりへの転換が大きな流れとなっている。KODAコンドミニアムのように、公共交通を軸とする駅前開発は「トランジット・オリエンテッド・ディベロップメント(TOD)」と呼ばれ、特に注目が集まる。

最上階ラウンジからの素晴らしい眺め天候次第でレニア山も望める

アジア系女性としてアメリカの不動産業界に飛び込んだビビアンさんならではの挑戦もある。「おそらくどこの国や地域へ行っても、不動産業界は男性ばかり。アメリカでは、マイノリティーの不動産開発者はまだまだ少ないのも実情です。ミーティングでは気後れして、発言をためらってしまいそうになることもあります」と打ち明ける。「それでも勇気を出して、私のようなアジア系女性だからこそ、不動産業界でちゃんと声を上げたいと思っています」

ダリ・ディベロップメントはKODAコンドミニアムに続き、C-ID駅前にフジマツ・コーポレーションと共同で住宅を含む複合商業施設、フジマツ・ビレッジを開発する計画を進めている。また、シアトル・センターの対面にある区画(222 5th Ave. N.)でのオフィス複合ビル施工開始を2022年に控える。アジアからシアトル市場に乗り込んだダリ・ディベロップメントと、マイノリティー女性としてアメリカの不動産業界で奮闘するビビアンさんの今後を見守りたい。


KODAコンドミニアムの住み心地は?インターナショナル・ディストリクトでのライフスタイル

KODAコンドミニアムは、スタジオ(ワンルーム)から3ベッドルーム(3LDK)まで200戸以上がそろうタワーマンション。半分ほどが約40万ドル代の価格帯で販売されています。KODAコンドミニアムで実際に暮らす人々の声を集めました。

リタイア後に息子家族の近くで暮らす

元エンジニアのドナルドさんは、退職してテキサスから息子家族のいるシアトルへ、妻のミドリさんと移住。都会的な生活を存分に楽しんでいます。

■インターナショナル・ディストリクトに住む理由

シアトルへ引っ越してすぐに、インターナショナル・ディストリクトの賃貸住宅に住み始めました。アジア系のショップやレストランがたくさんあり、公共交通機関へのアクセスは最高。パイオニアスクエアやウォーターフロント、ダウンタウンの中心部も徒歩圏内なので、アクティブに過ごして運動不足にならずに生活できます。良い物件があれば購入したいと考えていたので、KODAコンドミニアムのプロジェクトが発表されてすぐに問い合わせました。

■近所のお気に入りの場所は?

スポーツ観戦が大好きなので、自宅から歩いて5分のルーメン・フィールドやTモバイル・パークへはしょっちゅう行きます。病院もハーバービュー・メディカル・センターがすぐ近くなのはありがたいですね。

データ・サイエンティストとしてシアトルで働く

マシューさんは2020年にガールフレンドとシアトルへ移住。シアトルは、ハイテク業界での仕事の豊富さ、そして周囲の自然環境が魅力だと言います。

■いつか住みたいと、夢に描いていたような部屋

大きな窓からの眺めが素晴らしく、自然光が入り、いつも部屋が明るいのが気に入っています。夜にはスタジアムのネオンもきれいに見えます。LEDライトのミラーが雰囲気を出している浴室も気分が上がります。

■素晴らしいピュージェット湾岸の夕景

夏場は、ルーフトップ・テラスで赤ワインを片手にグリルでステーキを焼くことも。ピュージェット湾に沈む夕日を眺めながらのディナーは、ほかでは味わえない楽しみかもしれません。天気が良ければレニア山が見え、夜景もまた格別。ジムやヨガ・スタジオは窓が広く取ってあるので、絶景を堪能しながらエクササイズができます。

見学ツアーの申し込みはこちら!

KODA Condominiums
450 S. Main St., Seattle, WA 98104
☎206-317-8579 info@ownkoda.com
https://ownkoda.com

 

ハイテク関連企業の国際マーケティング職を経て2005年からシアトル在住。2016年にワシントン大学都市計画修士を取得し、2017年から2022年まで北米報知社ゼネラル・マネジャー兼北米報知編集長を務めた。シアトルの都市問題や日系・アジア系アメリカ人コミュニティーの話題を中心に執筆。