シアトルの知恵ノート
知っておくと暮らしが豊かになるヒントを、シアトルで活躍するさまざまな専門家の方に聞きます。
気になる子どもの発達の遅れ。何をしたら良い?
近年、ADHDや自閉症、発達障がいといった言葉を日常的に耳にすることが増えてきました。原因は明らかではないものの、診断基準の変化や認知の広がりによる受診増等を背景に、ここ数十年で発達遅延や発達障がいと診断される子どもの数が世界的に増加しています。子どもを持つ家庭では、自分の子どもの発達について心配になることもあるかもしれません。アメリカで子育てをする中で、こうした不安にどう対応すればよいのかを解説します。
シアトル小児病院
松浦有佑■米国小児科専門医。ワシントン大学シアトル小児病院小児発達行動専門フェロー。日本医師免許取得後、日本国内初期研修を経て米海軍病院で勤務。アメリカ医師免許を取得し、2021年からニューヨークのマウントサイナイ病院で小児科専門医レジデンシーを開始。同時にジョンズホプキンス大学で公衆衛生修士課程を専攻。ともに修了し、2024年より現職。NHKワールドや在米邦人チャンネルさくらラジオでラジオドクター等の出演歴あり。共著には『全く英語が話せなかった私のとっておき医療英語勉強法』『ぼくらのリアル!メディカル英会話フレーズ集』がある。
Seattle Children’s Hospital Neurodevelopmental Program
4800 Sand Point Way NE., Seattle, WA 98105
☎️206-987-2210(紹介状が必要)
Yusuke.Matsuura@seattlechildrens.org(相談予約は電話のみ)
www.seattlechildrens.org/clinics/neurodevelopmental
小児科検診の意義
日本では、乳幼児健診は保健所での集団健診が一般的です。元気であれば、予防接種以外では病院を訪れる機会がほとんどない方も多いのではないでしょうか。一方、アメリカでは、乳幼児健診はすべて小児科医との1対1の診察で行われます。生後1週間から始まり、1カ月、2カ月、4カ月、6カ月、9カ月、12カ月、15カ月、18カ月、24カ月、30カ月、36カ月、その後は毎年と頻繁にクリニックを訪れ、子どもの健康状態を評価します。もちろん上記の頻度であれば保険が適応されます。
診察時間は毎回20分から30分程度確保され、かかりつけ医による定期的な健診を通じて、成長の過程を一貫して見守ってもらえるのが特徴です。診察内容は、身体の成長(体重・身長)、食事内容、聴力・視力、睡眠、学校での生活といったことに関して聴取され、必要に応じて生活指導、保護者の相談対応、血液検査やワクチン接種等も行われます。その中でも大きなウェイトを占めているのが発達の評価です。小児科医は、子どもの年齢に応じた発達段階を毎回アセスメントしています。アンケート形式のスクリーニングツールを用いた一般的な発達評価のほか、18カ月と24カ月検診では自閉症のスクリーニングも行います。
シアトル小児病院内の地図。カラフルなイラストはまるでテーマパークのよう
もし発達に遅れがあったら?
家族との会話や診察の中で、小児科医が発達の遅れや問題行動を確認した場合、「早期介入(Early Intervention)」というプログラムが推奨されます。このプログラムは、未熟児で生まれた子どもや発達の遅れがある3歳までの子どもを対象に、国が無償で言語療法や理学作業療法などの支援を提供するものです。申請は小児科医を介することが一般的ですが、親が直接申し込むことも可能です。申請後、専門家が自宅を訪問して(もしくはリモートで)評価を行い、早期介入が必要と判断された場合には支援が始まります。
3歳以降は、学校が評価を行い、必要に応じて継続的な支援を行います。ただし、発達支援は早い時期から受けるほど効果が大きいとされています。生後すぐから小児科医との受診を定期的に受け、スムーズに支援につなげることが理想的です。もちろん、3歳以降に発達障がいや発達の遅れが発見された場合でも、学校を通じて評価・支援を受けることは可能です。しかし、学校からの指摘がない限り、手続きを学校に依頼する必要があり、ほかにも多くの子どもを受け持つ学校とのやりとりには時間と労力がかかることも少なくありません。そのため、3歳以前に早期介入を活用し、支援の流れを整えておくことが重要です。
シアトル小児病院、神経発達専門外来
シアトル小児病院は全米トップクラスの小児医療機関です。この病院には「神経発達専門外来」があり、自閉症やADHD、学習障がい、不安症、脳性麻痺など、さまざまな発達や行動の問題に対応しています。一般小児科医の診察では対応が難しい場合や、家族の希望がある場合には、この専門外来でさらに詳しい診断と支援が行われます。
もし気になることがあれば、まずはかかりつけの小児科医に相談し、必要であれば当院にいらしてください。