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不動明王護摩祈祷〜シアトルの知恵ノート

知恵ノート

知っておくと暮らしが豊かになるヒントを、シアトルで活躍するさまざまな専門家の方に聞きます。

不動明王護摩祈祷

不動明王の護摩による祈祷が、ここシアトルでも行われているのをご存じでしょうか? ユネスコ世界遺産・高野山金剛峯寺の正式な末寺であるシアトル高野山にて体験することができます。

シアトル高野山

今中太定■1968年生まれ。大阪市出身。慶應義塾大学卒業。1992年に高野山蓮華定院にて戒師・添田隆昭師に従い出家得度。2006年、開教師としてシアトル高野山に赴任。2011年にいったん日本に帰国し、圓通律寺の寮監を経て総本山金剛峯寺国際局に配属。2014年から再びシアトル高野山の住職を務め、現在に至る。シアトル大学の宗教間交流センター(CEIE)の諮問委員としても精力的に活動。

Seattle Koyasan Buddhist Temple
1518 S. Washington St., Seattle, WA 98144
☎206-325-8811、
contact@seattlekoyasan.com
www.seattlekoyasan.com

心の声を書く

護摩とは、不動明王を本尊とする火の儀式。願望あるいは困り事を、護摩木と呼ばれる木札に書き出して不動明王の智慧ちえの火にくべることで、願望の実現、困り事からの脱却を期する祈祷です。これは、最近の言い方をすれば、心の声の「見える化」になります。

「火事場の馬鹿力」という言葉がありますが、私たち人間は潜在的にとんでもない問題解決能力を持ち合わせています。その能力をフル稼働させるためには、たとえば「火事場からの脱出」というような、具体的で明確なターゲットが必要です。

願望の達成にしろ、困り事の解決にしろ、その他の諸事情、諸問題とリンクさせて、モヤモヤと心に沈澱させていませんか? 心の声を簡潔に護摩木に書き切ることで、ターゲットが定まります。

お腹を空かせた赤子は、躊躇なく母親に「ミルク!」と叫びます。大人は普通、そんな風に自分の本当の願いを表に出すことはしませんよね。しかし、言霊を発し、空気を震わせることで宇宙は感応し、動き始めます。私たちはいつしか、この素朴なコール・アンド・レスポンスを放棄してしまったのではないでしょうか。

宇宙は万人のお母さん。「ミルク!」と泣き叫ぶ赤ちゃんを無視できるお母さんはいません。あなたの心からの声であれば、母なる宇宙は願いの実現に動きます。

マントラの力

護摩では、導師が祈願内容を読み上げますが、その間、参列する皆さんは一心に不動明王の真言マントラ を唱え続けます。弘法大師・空海は著作『般若心経秘鍵』で、マントラの効果を「真言は不思議なり。観誦かんじゅ すれば無明を除く」と説いています。つまり、マントラの不思議な力を信じて唱えれば、迷いや苦しみの根源となる煩悩は取り除かれる、と。

煩悩とは、またの名を三毒と言い、1. 利己的な心、2. 憎む心、3. むさぼりや怒りに溺れる心、を指します。心をがんじがらめにしている三毒を、マントラを唱えながら護摩の炎で焼き切れば、濁っていた心が清冽な氣に満たされます。それがもと の氣、すなわち元気です。

アメリカ人仏教徒からは「己の願望を仏教に持ち込むのは良くないのでは?」との声も聞かれます。私利私欲を戒めるのが仏教であると考えるからでしょう。しかし、赤ちゃんがミルクを求めることが決して私利でも私欲でもないように、人間存在としてのあなたが本当に必要とする何かがあるはずです。元気に咲く花が、より多くの蜜を与えるように、あなたが元気でいることが、地球のウェルビーイングに直結します。

生きとし生けるものが幸せであることは、母なる大宇宙の切実な願い。言わば小宇宙である人間ひとりひとりが、不動明王の炎で三毒を焼き切ってもらうことで、母なる大宇宙の大悲にアラインします。宇宙の願いと一体になれば、願望が実現しないことはありません。

護摩は菩薩道の入り口

世界を見渡せば、現在も戦争状態にある国や地域では、兵士のみならず何千人もの子どもたちが親を失い、今日を生きています。平和とされる国々においてすら、無邪気な子どもが傷付けられる残酷な仕打ちが絶えません。子どもがひとり死ぬたび、宇宙全体が嗚咽していることでしょう。

菩薩とは、宇宙の大悲を今いるこの場所で体現する人のことです。地球には、もっと多くの菩薩が必要です。その候補者は、たとえ不完全であろうと、私たち人間しかいないのです。護摩を介してひとりひとりが元の氣を取り戻し、やがて菩薩となって元気に活動することは、宇宙全体の願いでもあるのです。あなたという生命が授かったはずの元の氣を取り戻し、ひいては菩薩に成ってください。ぜひ一度、当山の護摩にお越しください。

不動明王護摩供
毎月最終日曜日の午後12時より不動明王護摩を修しています。所要時間は90分。不動明王の大悲の炎で、たまった陰の気を焼き切り、元気な心を取り戻します。一祈願10ドル。終了後、山寺風味噌汁とご飯のお接待もあります。