シアトルの知恵ノート
知っておくと暮らしが豊かになるヒントを、シアトルで活躍するさまざまな専門家の方に聞きます。
新型コロナウイルス感染症と妊娠・出産(前編)
妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると、重症化するリスクが高いとされています。妊婦、あるいは妊娠を望む女性とその夫やパートナー、家族が気を付けるべきこと、知っておきたいことを、前後編に分けて詳しく解説します。
妊婦が重症化しやすいのはなぜ?
妊娠中の女性の身体は、いろいろな面で変化を起こしています。たとえば、免疫力が低下するために呼吸器系の病気になりやすいこと、循環血液量が増えること、胎児の分も酸素供給をしていることなどが挙げられます。妊婦が新型コロナウイルス感染で重症化する可能性が高いのは、心肺機能がそのような通常以上の負荷のかかる状態にあることが理由と考えられます。
CDC(米疫病対策センター)の報告によると、新型コロナウイルス感染症で入院した患者のうち、妊婦は集中看護室への入院、呼吸器の装着ほか、高度な医療が必要になるなどの重症化したケースが妊娠していない人と比べ、ほぼ2倍になっています。死亡率で見ると、妊娠していない場合より70%高いというデータも見られます。
mRNAワクチンの妊娠・出産、授乳への影響
新型コロナウイルスのワクチンのうち、モデルナ社とファイザー社のものは「mRNA(メッセンジャー・アール・エヌ・エー)ワクチン」と呼ばれる新しいタイプです。これはウイルスを体内に入れるのでも、ウイルスのたんぱく質を使うのでもありません。表面上にある突起状のスパイクたんぱく質が、新型コロナウイルスに似ているたんぱく質を自分の体内で作れるように、mRNAと呼ばれる「設計図」を渡してくれる仕組みです。それによって体内に抗体ができます。
mRNAは、たんぱく質を作り始めると細胞内で分解されるため、体内に長くとどまることなく消えていきます。つまり、妊婦の胎盤に届く可能性は低いと言えるでしょう。接種後の短期間で、自然な抗体が体内で作られるので、ワクチン接種による新型コロナウイルスへの感染や胎児への影響の心配は全くありません。
mRNAは母乳にも入らないとされています。一方で、ワクチン接種によって母親の体内で作られた抗体が、母乳に届いて乳児を守る効果があるかどうかは、まだ研究が始まったばかりです。
なお、ジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンはmRNAの代わりに、良く似た形のウイルスの一部を使って抗体の生成を促す仕組みです。新型コロナウイルス感染症を引き起こす可能性がないという点では、他のワクチンと同じです。
妊婦にはワクチン接種を推奨
新型コロナワクチンに限らず、新薬や新しいワクチン開発の際には倫理上、妊婦を対象とする治験を行うことができません。そこで、動物実験で奇形や死産が起こらないという事実と、mRNAワクチンの仕組み上、体内に長く残らず胎盤へ届かないという理論的な理由から、「おそらく安全であろう」という考えを基に妊婦への接種が始まりました。そして、これまで多数の妊婦がワクチン接種を受け、その安全性と効果が確認されています。
逆にワクチンを接種しないことで、深刻な症状を引き起こしたり、母子共に死亡したりする確率が高くなることもわかってきています。CDCの統計によると、最多となった今年8月の1カ月間に新型コロナで死亡した妊婦は22人。そのうち97%はワクチン未接種者でした。
そうした実績があるにもかかわらず、いまだに妊婦の接種率は一般の人と比べて低く、2021年10月21日時点で全米平均35%ほどにとどまっています。これまでにわかっている安全性と効果、受けなかった場合の重症化率や死亡率を考えると、もっと多くの妊婦の方がワクチン接種を受けることが望まれます。
後編では、それでもワクチン接種をしたくない場合の対応策、コロナ下での通院と出産などについて紹介していきます。
押尾祥子■聖路加看護大学(現・聖路加国際大学)で日本の看護師・助産師資格を取得後、ボストン大学で看護教育修士号を取得。聖路加看護大学で教鞭を執った後に再び渡米し、ワシントン大学で看護学博士号を取得。より自分らしいケアを行いたいとオレゴン・ヘルス&サイエンス大学でアメリカの助産師資格も取得し、助産師・看護師として20年以上にわたりシアトル地域に住む日本人女性の健康を見守る。近年は精神科看護師資格も取得し、なでしこクリニックで産婦人科と精神科の外来診療を行う。
なでしこクリニック
Nadeshiko Women’s Clinic
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ワシントン州居住者および就労者は、ビザ・ステータスや市民権、保険の有無にかかわらず、対象年齢であれば誰でも新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンを無料で接種することができます。
⃝ワシントン州保健局からのCOVID-19およびワクチン日本語情報
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