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親は何ができる?何をしてはいけない?性被害に遭った子どもへの対応

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

親は何ができる? 何をしてはいけない? 性被害に遭った子どもへの対応

コロナ禍で遠隔学習になり、家の中で逃げ場を失った子どもが性被害に遭うケースが多数報告されています。

アメリカでは18歳になるまでに女子の4人に1人(https://www.cdc.gov/violenceprevention/childabuseandneglect/childsexualabuse.htmlが、男子の6人に1人(https://www.jimhopper.com/topics/child-abuse/sexual-abuse-of-boys/statistics-on-sexual-abuse-of-boys/)が性被害に遭うとされ、悲しいことに加害者のほとんどが家族や親戚、託児所の職員、教会関係者など子どもがよく知っている人物。被害者の7割が大人になるまで誰にも打ち明けられずに長期化するケースが多いのです。表面化しない理由のひとつに、加害者が贈り物などを与えたり褒めたりして特別扱いする「グルーミング」と呼ばれる手法で、子どもの心を巧みに操作することが挙げられます。

子どもは性的行為が愛情に基づく特別なものと信じ込み、その反面、汚いことをしているという罪悪感にも苛まれます。また、加害者は子どものネガティブなイメージを周囲に植え付け、子どもの主張を周囲が退けるよう仕向けながら、子どもには「自分の言うことなど誰も信じない」、「自分が家族を不幸にしてしまう」、「家を追い出されてしまう」などの強い無力感や恐怖心を抱かせて支配します。

ほとんどの子どもは加害者に逆らえません。被害は繰り返され、長期化すればするほど心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの重篤な精神障害に発展する可能性が高くなります。また、思春期以降は、年下の子どもや付き合っている相手に性的暴行を行うなど加害者になる場合や、自己破壊的な性的逸脱行動を取る場合も。

では、どうしたら子どもの性的虐待被害に気付けるのでしょうか。性的虐待を受けた子どもの特徴として、6歳以下だと分離不安や不眠・仮眠のほか、元気がなくぼーっとしたり、不適切な性行動を取ったり、性器や性器周辺の違和感・痛みを訴えたりすることが挙げられます。7〜12歳は不安やうつ症状のほか、性的なものへの強い回避やこだわり、登校拒否、学業成績の低下、問題行動、自傷行為や希死念慮が見られることも。13〜18歳は12歳までの症状に加えて、家族と会話せずひきこもりになる、薬物やアルコールの乱用、強い自己嫌悪や自責感ほか、自殺未遂にまで追い詰められる場合もあります。

子どもが上記の症状に該当した場合、落ち着いた態度で子どもに「誰かに体を触られて気持ち悪かったり、痛かったり、怖い思いをしたことがある?」、「裸の写真やビデオを撮られそうになったり、見せられたり、体を触るように言われたことはある?」などと聞きます。答えが「イエス」だった場合、「いつ、どこで、誰に、何を、どのように」という客観的な事実を聞き取ります。「お父さんに?」、「○○を触られたの?」などの誘導的な質問は避けましょう。

子どもの多くは口止めされているため、最初は否定するか、「友だちの話だよ」、「少し触られただけ」などと被害を小さく見せようとします。また、勇気を出して性被害を打ち明けても、親が信じてくれなかったり逆に狼狽したり落ち込んだりすると、子どもは絶望感や羞恥心から撤回し、被害がなかったと嘘をつくこともあります。「あの人が? 信じられない」、「本当にそんなことがあったの?」、「なぜ逃げなかったの」、「すぐに話してくれれば良かったのに」などの否定的なコメントは、絶対に言わないでください。子どもの心の傷をさらに深める結果になってしまいます。

いかなる状況下であっても、子どもは100%守られるべき存在であり、子どもに一切の責任はありません。子どもの話をどんな小さなことも全て真摯に受け止め、「話してくれてありがとう」、「気付いてあげられなくてごめんね」、「つらかったね」、「もう何も心配ないからね」、「あなたがいちばん大事だよ」と、子どもの傷を少しでも癒す言葉をかけて抱きしめてあげてください。その後は速やかに警察、児童相談所、医療機関へ連絡して指示を仰ぎ、検査と治療を受けましょう。未成年者の性被害対応機関には、ハーバービュー・センター(性的暴行&トラウマ:
☎206-744-1600)やシアトル・チルドレンズ保護プログラム(☎206-987-1193)などがあります。被害を受けている子どもの心の苦しみは計り知れません。こうした子どもたちが一刻も早く支援を受け、前向きに生きられるようにと切に願います。

ワシントン州にある性被害対応機関
https://www.aap.org/en-us/advocacy-and-policy/aap-health-initiatives/Child-Abuse-and-Neglect/Pages/State-Information.aspx?liid=50

子ども時代の性被害のおよぼす影響
https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/committee-opinion/articles/2011/08/adult-manifestations-of-childhood-sexual-abuse

性被害を受けた子どもへの介入法

*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com