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見逃しやすい子どものうつ病:早期発見と対処法〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

見逃しやすい子どものうつ病:
早期発見と対処法

「最近急に怒りっぽくなった」「朝起きれずに遅刻が増えた」。こうした変化に戸惑う親は少なくありません。これらは単なる成長の一環と思われがちですが、実はうつ病の兆候である可能性もあります。この記事では、子どものうつ病の兆候や原因、早期発見のポイント、そして親ができるサポートについて解説します。

近年、子どものうつ病が増加傾向にあることが、さまざまな調査から明らかになっています。2021年のデータによると、12歳から17歳の青少年の約500万人(20.1パーセント)が少なくとも一度は重度のうつ病を経験しており、有病率は男性(11.5パーセント)よりも女性(29.2パーセント)の方が高くなっています。さらに、うつ病を抱える未成年のうち60パーセントが治療を受けていないのが現状です(記事末①、②参照)。また、2023年には、12歳から17歳の約20パーセントにあたる530万人以上がうつ病、不安、薬物使用障害、自殺願望など精神疾患の診断されたという報告もあり(記事末尾③参照)、子どもたちに適切なメンタルヘルス支援が届くことの重要性が浮き彫りになっています。

大人と異なる子どもの症状

子どものうつ病は、大人とは異なる形で現れることが多いため、見逃されやすく誤解されやすい傾向にあります。以下のような兆候が見られる場合、注意が必要です。

認知・感情の変化
•イライラや怒り:ささいなことで泣き叫ぶ。怒りっぽくなる。
•興味・関心の喪失:遊びや学校生活に興味を示さなくなる。成績が落ちる。
•罪悪感や無価値感:自分には価値がないと感じるようになる。

行動の変化
•食欲・睡眠の変化:食欲がなくなる。朝起きれなくなる。
•身体的な不調:頭痛や腹痛を訴えるが、医学的な原因が見つからない。
•退行:夜尿症。親にしがみつく。以前できていたことができなくなる。

子どものうつ病の原因

うつ病は、強いストレスが続くことによって心と体が耐えきれなくなり、一時的に心身の機能が大きく低下する状態ともいえます。心理面では自己評価が下がり、否定的な感情が続くようになり、身体面では自律神経のバランスが崩れてさまざまな不調が現れます。

原因となるストレスには、家庭や学校での問題、差別や貧困といった社会的要因に加え、ストレス耐性に関わる遺伝的な要素も含まれます。たとえば、繊細で敏感な性格の子どもは同じ出来事でも不安やうつを発症しやすくなりますが、家庭や学校が温かく安心できる環境であれば、心が安定し健全な自己肯定感を育むことができます。一方で、ストレスに強い性格の子どもでも、親から過度なプレッシャーや否定的な言葉が続くと、うつ病を発症するリスクが高まります。つまり、環境的要因と遺伝的要因が相互に作用し、さまざまな要素が絡み合ってうつ病は引き起こされるのです。

親ができるサポート

子どものうつ病には、早期発見と適切な対応が重要です。親ができることを紹介します。

① オープンなコミュニケーションを心がける:
子どもが安心して気持ちを話せる環境をつくりましょう。親から見てささいなことでも、子どもにとっては一大事かもしれません。「子どもの言動はすべて学びの機会」と見方を変え、話をよく聞くことが大切です。

② 専門家のサポートを活用する:
うつ病は発症してしまうと、回復に長い時間がかかります。少しでも疑わしいと感じたら、早めに専門家の診断と治療を受けることが重要です。

親自身のメンタルヘルスを整える:
親が精神的に安定していることが、子どもにとっても安心感につながります。必要であれば親自身もセラピーを受け、ストレス管理や感情を安定させる方法を身につけましょう。

ストレス対処法を教える:
困難に直面したとき、どうやって感情を整理し、ストレスに対応するかの具体的な方法を教えることが大切です。深呼吸やリラクゼーション法を取り入れたり、問題解決を一緒に考えたりする習慣をつけましょう。

子どものうつ病が増加しているという現実は、個人だけの問題ではなく、社会全体の在り方が影響を及ぼした結果ともいえます。「早く良くなってほしい」という気持ちは当然ですが、家庭や社会の在り方を見直す機会と捉えてはいかがでしょうか。回復には時間がかかるもの。焦らず、子どもの小さな変化や成長に目を向け、じっくりと寄り添いながら支えていく姿勢を持ちましょう。

1) Major Depression
www.nimh.nih.gov/health/statistics/major-depression?utm_source=chatgpt.com

2) The State of Pediatric Mental Health in America 2023 Report www.officepracticum.com/blog/the-state-of-pediatric-mental-health-in-america-2023-report/?utm_source=chatgpt.com

3)Depression rates rising in preteens. Mental fitness tools can help.
www.ama-assn.org/delivering-care/population-care/depression-rates-rising-preteens-mental-fitness-tools-can-help?utm_source=chatgpt.com


長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com