知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。
H-1B ビザ申請に関する新ルール
H-1Bビザは、特殊技術や知識を必要とする専門職に就く外国人労働者に適合する就労ビザで、専門分野での学士号、または同程度の実務経験が必要となります。通常、アメリカの4年制大学を卒業した外国人に利用されることが多いビザですが、アメリカ国外で学士号を取得した、あるいは同程度の実務経験がある外国人労働者にも適合します。また、H-1Bビザは職歴のない新卒者でも申請可能です。
H-1Bビザの最大の難点は年間発給数に上限があるため、申請しても取得できない可能性が高いことです。 移民局の会計年度である10月1日から翌年の9月30日までの1年間に移民局が発給できる一般枠のH-1B ビザの数は6万5,000件、米国で修士号、あるいはそれ以上の学位を取得している人に該当する高学歴枠は2万件です。
移民局は、1月30日にH-1Bビザ申請に関する新ルールを発表しました。高学歴枠の抽選方法が変わり、また、雇用主による電子登録が義務化されることになりました。なお、新ルールは2019年4月1日から施行されますが、雇用主による電子登録は保留となり、来年(FY2021)から開始される見込みです。また、新ルールは、年間発給数にカウントされる新しい申請のみが対象で、延長や改正申請への影響はありません。
1. 高学歴枠の抽選
これまでのプロセスでは、移民局は、まず最初に高学歴枠の抽選を行い、その抽選に漏れた申請者を一般枠に加えて一般枠の抽選をしていました。しかし、新ルールでは、このプロセスが逆になり、高学歴の申請者を含めた全申請者に対しての抽選後、この抽選で漏れた高学歴者を対象に高学歴枠の抽選を行います。
2. 雇用主による電子登録
新ルールの下、移民局は電子登録システムを導入します。H-1Bビザの申請を希望する雇用主は、登録期間内(登録期間は遅くとも申請提出開始30日前までに告知され、少なくとも14日間の登録期間が設定される)に、このシステムに登録をしなければなりません。
登録には、雇用主の基本情報のほか、外国人労働者の氏名、生年月日、出生国、国籍、性別、パスポート番号、申請枠(一般枠か高学歴枠か)などが必要となります。また、申請を希望する外国人労働者ごとに、個別での登録が必要です。さらに、雇用主は、実際に役職があることを認証しなければならず、移民局は登録システムをモニターし、不正行為などを取り締まります。
登録期間終了後、登録数がH-1Bの年間発給数の上限を上回っている場合、移民局は抽選を行い、当選者に通知します。当選した申請者は、少なくとも90日間ある提出期限内に実際の申請を提出しなければなりません。
2018年の会計年度には、一般枠6万5,000件と高学歴枠2万件に対して、19万9,000件の申請がありました。これまでの方法では、抽選で漏れる可能性が高いにもかかわらず、全ての申請書類を提出しなければなりませんでした。しかし、電子登録を義務付けることによって、実際に抽選で選ばれた場合に限り申請準備を行うことになり、申請準備にかかる費用や時間を考えると、雇用主の負担が減ります。また、高学歴枠の抽選方法を変えることで、高学歴者の当選率は16%(5,340労働者)上昇すると予想されており、本来優先されるべき高学歴者が優先されるようになります。