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H-1Bビザ労働者が解雇されたら〜知っておきたい身近な移民法

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

H-1Bビザ労働者が解雇されたら

最近、メタ(旧フェイスブック)、グーグル、アマゾン、ツイッター、マイクロソフトといった大手 IT企業で大量解雇が相次いでいます。失業は誰にとってもつらいことですが、H-1Bビザ労働者が解雇された場合、ビザの問題が重なるので、余計にストレスや不安を抱え込むことになります。解雇後のH-1Bビザ労働者には、どういったオプションがあるのかを考えてみましょう。

米国移民法では、承認されている滞在有効期間より前に雇用が終了したH-1Bビザ保持者に対して、雇用終了から最大 60日の猶予期間(Grace Period)が与えられています。この猶予期間は、解雇された日からスタートします。ただし、承認されている滞在有効期間が 60日よりも短い場合は、滞在有効期間の満期となります。たとえば、1月30日に解雇されたH-1Bビザ労働者の滞在有効期間が2月15日までの場合、猶予期間は2月15日で終了します。扶養家族のH-4ビザ保持者にも、H-1Bビザ労働者と同じ猶予期間が与えられます。解雇後のH-1Bビザ労働者が、この猶予期間内にできることは何でしょうか。

1.新しい雇用先を見つけてH-1Bビザのステータスを維持 猶予期間内に転職先が見つかり、新しい雇用主によるH-1Bビザ申請を行うことができれば、アメリカ国内でのステータス維持が可能になるかもしれません。H-1Bビザ労働者は、H-1Bビザにおけるポータビリティーのルールの下、新しい雇用主による申請が移民局に受理され次第、申請の認可を待たずに働き始めることができます。
2.別の非移民ステータスに変更 もし自分の配偶者がメインのビザ保持者であれば、その扶養家族としてステータスを変更することもオプションのひとつです。たとえば、配偶者が同じくH-1B ビザ労働者の場合は、その配偶者としてH-4ビザのステータスに、配偶者が L-1ビザ労働者なら、その配偶者としてL-2ビザのステータスに変更できます。あるいは、これを機に学生に戻る場合には、F-1ビザのステータスへの変更も考えられるかもしれません。なお、EビザやLビザなど、ほかの就労ビザのステータスへの変更となると、前述のH-1Bビザのポータビリティーのルールは適合しません。よって、申請が認可されるまで雇用を開始できないのでご注意ください。

H-1Bビザ労働者は解雇後、60日間の猶予期間を得るために特別な手続きや申請を行う必要はありません。ただし、猶予期間内に転職によるH-1Bビザの雇用先変更や、別のビザのステータス変更を申請する場合、移民局は審査する際にH-1Bビザ労働者の状況から猶予期間が正当かどうかを判断します。そういった意味では、猶予期間は完全に保障されるものではなく、最終的には移民局が裁量権を持ちます。

突然解雇されたケースでは、高い確率で猶予期間が与えられると考えて良いでしょう。雇用先変更を申請する際は、雇用終了の理由や、懸命に仕事を探して可能な限り迅速に申請書を提出したことなどを明確に説明し、さらにそれをサポートできる証拠書類を提出しなければなりません。

また、猶予期間内に正当な申請書を提出することによって、審査期間中は不法滞在日数のカウントが一時的に停止します。つまり、猶予期間が終了した後も、審査期間中はアメリカに合法的に滞在できることになります。最終的に申請が認可された場合、猶予期間を超えた滞在も合法とみなされます。しかし、申請が却下されると、却下の翌日から不法滞在日数が蓄積し始めます。プレミアム・プロセスの対象となる申請の場合は、ぜひ利用を検討してください。

3.グリーンカードのアジャストメント申請 H-1Bビザ労働者の経歴や実績によっては、卓越能力保持者(EB-1)や国益免除(EB-2)など、自己申請の対象となるカテゴリでのグリーンカード(永住権)申請が認められるケースがあります。状況によっては、結婚など家族関係に基づくグリーンカード申請もオプションとなるかもしれません。
4.アメリカから出国 いったんアメリカから出国することもオプションのひとつでしょう。解雇されたH-1Bビザ労働者がアメリカを出国する場合、雇用主にはその労働者に対して、アメリカに入国する前の最後の外国居住地までの交通費を支給する義務があります。出国後、改めてビザを申請することも可能です。

H -1B ビザ労働者が解雇された場合、個々の状況を検討し、ケースバイケースで分析する必要があります。自身で判断せず、移民法弁護士に相談することをおすすめします。

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118