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シアトルの移民関連エージェンシーで個人情報盗難!

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。

シアトルの移民関連エージェンシーで個人情報盗難!

米移民税関捜査局(U.S. Immigration and Customs Enforcement、以下ICE)は、旧移民帰化局(INS)から9・11以降分割された移民関連エージェンシーのひとつであり、移民法・関税法の法執行機関です。主な役割は、米国内にいる不法滞在の外国人の国外退去手続きで、法律上の手続きを司法省直属の移民裁判所(Immigration Court)で行います。そのため、ICEには法律顧問が所属しています。そのシアトル・オフィスのラファエル・サンチェス元主席法律顧問が、2月12日に連邦地裁に起訴されました。裁判所に提出された起訴状によると、有線通信不正行為(Wire Fraud)と加重個人情報の盗難(Aggravated Identity Theft)の罪状が述べられています。

起訴状には、サンチェス被告がICEシアトル・オフィスの主席法律顧問であった2013年10月から2017年10月25日ごろまでに、ICEの国外追放手続きから得た7人の外国人のインフォメーションを用い、アメックス、バンク・オブ・アメリカ、キャピタル・ワン、ディスカバー、JPモーガン・チェイスなど複数の金融機関をだまして利益を得ようとしたとあります。そのために、ICEの職場のメールアドレスから自分のプライベートのヤフーメールに、国外追放手続きで得た外国人のさまざまな情報を送った容疑がかけられています。実は起訴状では、情報を盗まれたとされる7人の外国人の詳細に触れていません。裁判所ルールによると、大陪審による訴追決定の権利を放棄した場合にこのような形式となり、すでに司法取引がなされている証拠です。

訴状には1例のみ、R・Hという人物の有線通信内容が記載されています。それによると2016年4月18日、サンチェス被告は、彼の政府アカウントメールからプライベートのヤフーメールに、R・Hさんの住所が記載されたピュージェット・サウンド・エナジーからの請求書、グリーンカード、中国のパスポートの情報を送ったということです。この通信は、ワシントン州から発信されましたが、ウエスト・バージニア州とミシシッピー州にあるサーバーを経由したため、州間をまたぐ通信となり、連邦当局が訴追する犯罪となりました。個人情報の盗難では2016年7月5日ごろ、金融機関を相手に不正を働くために、R・Hさんの氏名、ソーシャル・セキュリティー番号、誕生日などの個人情報を盗んで保持し、利用した容疑がかけられています。

サンチェス被告の罪状認否は2月15日でしたが、司法取引により、サンチェス被告は起訴された2件に関し有罪を認めました。また、検事である連邦司法省の担当部署(Public Integrity Section)の代理人は、この2件以外の訴追をしないことに同意しました。この件の損害額は今も計算中で、最低19万ドルに上るとのことです。裁判所において裁判官とのやり取りは以下のようなものでした。

裁判官:被害者は全て外国人ですね。

サンチェス被告:はい。

裁判官:あなたは起訴状に記載された期間、ICEが保持するいろいろなコンピューター・データベースを利用しましたか。

サンチェス被告:はい。

裁判官:被害者は全て、ICEが公務上関わった人たちですか。

サンチェス被告:はい。

裁判官:被害者は、移民ステータスのため社会的に弱い存在であることを認めますか。

サンチェス被告:はい。

裁判官:被害者のうち3人を、あなたの確定申告(Tax Return)で扶養者として記載したことは事実ですか。

サンチェス被告:はい。

なお、ICEシアトル・オフィスでの不祥事は、サンチェス被告の件だけではなく、2016年にはジョナサン・ラブ元法律顧問が文書偽造で有罪となりました。ラブ被告は、国外追放手続きで採用される証拠書類に偽造を加え、外国人に不利になるようにした罪を問われました。以後、ICEシアトル・オフィスは、ラブ被告が関わった事件で他に文書偽造が行われたかを監査しましたが、その担当者がサンチェス被告です。

自分の不正が発覚する恐れがあるため、当時のサンチェス被告による監査が十分だったのかという疑惑が持ち上がっています。また、同じICEのオフィスから不祥事が続いたため、発覚した事件は氷山の一角ではという疑念もあります。

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118