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公的扶助を受ける可能性のある外国人を対象にルールの大幅変更

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。

公的扶助を受ける可能性のある外国人を対象にルールの大幅変更

米国移民法では、1882年以降、「公的扶助を受ける可能性のある外国人(Public Charge)」は、ビザの取得、アメリカへの入国や永住が禁止されています。Public Chargeは、米政府から経済的な援助を受けることを意味しますが、移民法では、その範囲や定義がはっきり決まっていません。そのため、その可能性があるかどうかの審査は時代によって変わってきました。

これまでは、1996年に制定された不法移民改正及び移民責任法(IIRAIRA:Illegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act)と呼ばれる法律で、主に家族関係に基づく申請時に、移住する外国人のスポンサーが提出する扶養宣誓書(Affidavit of Support)に法的強制力を持たせることで、それ以前のルールに比べてより徹底した策が取られていました。新ルールでも、引き続きスポンサーによる扶養宣誓書は必要ですが、移民局は、その他さまざまな要素・条件を考慮して、総合的にこの点を審査できるようになります。

まず、新ルールではPublic Chargeを「36カ月間に計12カ月間分のPublic Benefit(公的扶助)を受ける外国人」と定義します。具体的には、補足的保障所得(SSI:Supplemental Security Income)、貧困家庭一時扶助(TANF:Temporary Assistance for Needy Families)、いわゆる一般扶助(General Assistance)プログラム、フード・スタンプと呼ばれる補足的栄養支援プログラム(SNAP:Supplemental Nutrition Assistance Program)、セクション・エイト(Section 8)住宅補助各種、21歳未満や妊婦などの一部を除くメディケイド(Medicaid)保険、セクション・ナイン(Section 9)公営住宅が対象となると発表しました。また、2種類のベネフィットを1カ月受けた場合は、2カ月分の受給とカウントされます。

総合的な審査においては、特に今までにはなかった外国人側の要素・条件の審査に移民局の大幅な裁量権が与えられ、移民局は以下の7つの要素およびネガティブ/ポジティブ・ファクターを考慮し、外国人が公的扶助を受ける可能性があるかどうかを判断します。

外国人が公的扶助を受ける可能性があるかどうかの判断基準

Age - 18歳から定年になるまでの雇用され得る年齢か。

Health - 働くことに影響のある健康状態であるかどうか。従来から必要である健康診断書によって主に判断される。

Family status - 家族の収入合計が高ければ有利となるが、配偶者の支払う養育費(Child Support)や配偶者扶養料(Spousal Maintenance)なども考慮される。

Assets、resources and financial status - 外国人の収入が米国貧困基準(Federal Poverty Guideline)の125%かどうか、外国人が将来発生し得る医療費を支払う資産があるか、および借金があるか、公的扶助を受けたことがあるか、などのほか、クレジット・スコアが考慮される可能性もある。

Education and skills - 過去3年のタックス・リターン、成績証明書、高校以上の卒業証明、職業上のスキルの証明、英語力の証明が必要となる。

Anticipated period of admission - 学生ビザや就労ビザなどの非移民ビザによる訪問者が対象の要件で、永住権の審査よりも審査基準が低くなり、上記の公的扶助を受けているかどうかが主な審査項目となる。

Affidavit of support -スポンサーが従来から提出が必要な書類。本当にスポンサーが経済的サポートを提供するのか、可能性を考慮する。

さらにこれらの要素に加えて考慮されるネガティブ・ファクターの例としては、外国人が学生でもなく就労許可も保持しているのに、現在仕事がない、もしくは職歴または将来的に仕事を得る可能性がない、公的扶助を現在受給している、もしくは受給を認められた、また病気・ケガによって治療もしくは入院が必要で、それが通学・通勤に影響を及ぼし、かつ医療保険がない、もしくは医療保険を得られない、またはほかに治療費を払うすべがない、などが考えられます。逆に、外国人の家族(Household)の合計収入が米国貧困基準の250%を満たすことができれば、ポジティブ・ファクターとなり得ます。

新ルールの施行予定は10月15日で、それ以前にファイルされた申請には該当しません。また、該当しないビザの申請カテゴリもあります。さらに、すでにこの新ルールをめぐって訴訟が始まっており、その結果、施行の差し止めとなる可能性も十分に考えられます。

最後に、新ルールは、移民局が管轄となる米国内でアジャストメント申請、あるいはステータス変更・延長申請をする場合に該当します。米国外の大使館・領事館でビザを申請する場合には米国務省の管轄となるため、新ルールは該当しません。ただし、近い将来、国務省も同じようなルールを取り入れることになると予想されます。

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118