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グリーンカードを含むビザの申請に関する新方針

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。

グリーンカードを含むビザの申請に関する新方針

トランプ政権が掲げる移民法改革の下、移民法制度の運用が厳しくなっています。移民局は7月13日に、RFE(Request for Further Evidence)とNOID(Notice of Intent to Deny)の発行に関する方針をさらに厳格化することを発表しました。新方針は今年9月11日から施行される予定で、この日以降に提出された全ての申請が対象となります。

グリーンカードを含むビザの申請では、第1ステップとして、申請者が必要書類を移民局に提出します。通常、担当審査官は、申請者が提出した書類を確認し、認可に必要な書類や情報が不足していると判断した場合、RFEまたはNOIDを発行し、申請者に補足書類や情報を提出する機会を与えることになっています。2013年に施行された現在の方針では、審査官は、「明らかに申請基準を満たしておらず、追加書類を提出させても基準を満たせる可能性が全くない(No Possibility)場合に限り、RFEまたはNOIDを発行せずに申請を却下しても良い」ことになっています。つまり、法律で不可能なことを申請しない限り(例:グリーンカード保持者による親の移民ビザ申請)、RFEやNOIDを発行せずに申請が却下されることは極めて稀です。

しかし、新方針では、審査官が「申請者が提出した書類や情報が申請を認可するに不十分である、あるいは、申請基準を満たしていないと判断した場合、RFEやNOIDを発行せずに、申請を却下することができる」ことになります。従って、もし申請者がRFEやNOIDによって通知を受けた場合、認可に必要な書類や情報を提出することが可能な状況にあっても、移民局は申請を却下できることになります。これは、トランプ政権下の移民法改革で、移民局の審査官により多くの裁量権が与えられることになると同時に、申請者は、移民局に提出する申請パッケージに不備がないよう、しっかり確実に、疑問の余地がないように準備をしなければならないということです。

移民局は、新方針の目的について、単純な間違いや申請基準の解釈の誤解を罰することではなく、明らかに証拠不十分な申請(例:結婚ベースのアジャストメント申請で、I-864 Affidavit of Supportを提出し忘れた)、または申請基準を満たしていない申請(例:L-1Aビザ申請の条件の1つである過去3年間のうち最低1年間、アメリカ国外の関連企業での勤務経験がない)を阻止することと主張しています。

上記の通り、新方針が施行されるのは9月11日からなので、現段階では、この方針が与える申請への影響はわかっていません。客観的な判断が必要な場合であれば、あまり影響はないかもしれません。たとえば、L-1Aビザの申請条件として、過去3年間のうち最低1年間、アメリカ国外の関連企業での勤務経験が必要となりますが、もし提出した資料から申請受益者の経験が1年に満たない場合、新方針の下、RFEが発行されることなく、申請が却下されることになります。しかし、主観的な判断が必要な場合はどうでしょうか。L-1Aビザの例で言うと、申請受益者のアメリカ国外での役職がマネジャーであったかどうかが争点になった場合、審査官の主観的な判断が少なからず申請に影響することになるでしょう。同じように、免除申請など、申請が認可されないと極度に困難な状況になることを証明しなければならない場合、その判断にも、やはり審査官の主観的な考えが反映されるのではないかと思われます。

また、ビザの申請において、すでに提出しているにも関わらず、まるで提出していないかのように同じ資料を提出するように要求されることは、頻繁にあります。現在の方針であれば、RFEが発行されるので、理不尽な要求であっても、同じ資料を提出することによって審査を継続してもらうことはできますが、新方針でRFEを発行しないとなれば、重要な資料を提出していたにも関わらず、審査官の見落としにより申請が却下されるケースも出て来るかもしれません。

このように、現段階では、新方針が与える影響の範囲や大きさはわかりませんが、専門家に相談せず個人で申請する場合には、申請の基準を理解し、申請に必要な全ての書類をそろえてから申請しなければ、再申請や控訴などに無駄な時間やお金を費やすことになるので、十分な注意が必要です。

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118