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トランプ政権の新しい移民法指針

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。

トランプ政権の新しい移民法指針

トランプ大統領就任1周年となった今年1月20日に、米政府の暫定予算の期限が切れ、連邦政府機関が一部閉鎖に追い込まれました。予算の期限切れによって政府機関が閉鎖されるのは、オバマ政権時代の2013年10月以来約4年ぶりとなりました。

議会が期限前につなぎ予算案の合意に至らなかった理由に、移民法の問題が深く関わっていました。野党である民主党は、つなぎ予算案に賛成する条件として、子どものころに親に連れられて不法入国した若者の在留を認める制度である「DACA」の継続を要求していましたが、与党・共和党はこれを拒否していました。その結果、つなぎ予算がないまま暫定予算は1月20日に期限を迎え、連邦政府機関の一部が閉鎖される事態となりました。

その後、共和党はつなぎ予算案の成立の条件として不法入国した若者の在留制度についての論議と投票を行うことを約束し、民主党も合意の上、1月22日に2月8日までのつなぎ予算案が成立し、連邦政府機関閉鎖は終了しました。週末を挟んだため、閉鎖による影響は4年前よりも少なかったと言えます。しかし、今回は上院・下院とも与党・共和党がマジョリティを占める中での予算の不成立であったことが4年前とは違う点です。

今回の予算論争の中心となったのが、DACAであったことは間違いありません。DACA(Deferred Action for Childhood Arrival)とは、子どもの時に親に米国に連れられて、今に至るまで正規の米国滞在資格を持たない人たちのことで、通称「ドリーマー」と呼ばれます。2012年にオバマ政権が制定したDACA政策は、ドリーマーたちに正式な米国再入国と就労の許可を出し、国外追放処分の対象から外すというものでした。DACAは、ドリーマーたちが将来、米国で正式な永住権を取得できるまでの過渡的な政策と位置付けられていました。しかし昨年9月5日、トランプ政権はDACAの6カ月後(2018年3月5日)の廃止を発表しました。ドリーマーたちが 米国で正式に永住権を取得するには、議会による立法が必要です。議会では長らく移民法改革の議論が続いていますが、国論を二分し、未だ合意を見い出せていません。今回のつなぎ予算成立によって、少なくとも法案の論議は行われるでしょう。

そのような中、トランプ政権は「White House Framework on Immigration Reform and Border Security」という移民法・国境警備に関する政権の方針を発表しました。この指針には、国境警備、ドリーマーへの市民権付与の道、家族関係に基づくグリーンカード申請の制限、および永住権抽選(Diversity Visa)の廃止がリストされています。

まず国境警備ですが、警備・法執行関連および移民法裁判所の人員増加への大幅な予算の追加と共に、250億ドルの信託基金による国境の壁の構築、そして簡易な方法による国外追放手続き制度の拡大が重点指針として列挙されています。

180万人とも言われるドリーマーたちの将来的な市民権付与については、10~12年の時間をかけてのプロセスを提案しています。

家族関係に基づくグリーンカード申請に関しては、「核家族」関係の再定義をし、米国市民権保持者および永住権者が、グリーンカードのスポンサーとして申請できる家族関係から、親・兄弟・成人した子どもを排除し、配偶者および未成年の子どものみと制限しています。これにより年間のグリーンカード発給数は、現在の50%にまで減少する見込みです。

永住権抽選(Diversity Visa)は、国益にかなっていないと断言し、廃止としています。永住権抽選で割り当てられていたグリーンカード発給数分は、待ち時間の長い家族関係・雇用関係に基づく申請カテゴリーへと割り当てるとしていますが、具体的にどのようにこれが達成できるかは不明です。

また、今回の指針から明言されているわけではありませんが、トランプ政権は、大人・子どもにかかわらず不法滞在の外国人を長期拘留できるための政府権限の増大も目指しているようです。

ホワイト・ハウスからのこのような指針は、議会での法律成立を目指す上でのガイドラインとなるはずですが、野党・民主党リー ダーであるチャック・シューマー上院議員は、この指針を「反移民強硬派の願いごと」と不快感を表しています。

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118