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H-1B 抽選が訴えられる?

H-1Bビザの2017年会計年度(2016年10月1日から2017年9月30日)分の申請受付が4月1日より開始され、大方の予想通り、最初の5営業日までで枠上限を超える申請がありました。年々増加する申請数ですが、今年は、合計236,000件以上の申請があったと報告されています。
H-1Bビザの年間発給枠は、65,000件です。また、米国大学の修士号取得者枠として、別途20,000件が割り当てられています。この数年は、一年間に発給できる上限以上の申請数があるため、審査に選ばれるための抽選が行われています。その抽選は、4月9日にコンピュータによってランダムに行われ、すでに抽選に当選した申請に関しては、受領書が郵送されているはずです。もしこの時点で受領書を受け取っていないとすれば、残念ながら申請は当選しなかったと言えます。

さてそのH-1B抽選ですが、5月20日に当事務所も所属する米国移民法弁護士協会が、抽選プロセスに透明性がないとの理由で移民局およびその所管省である国土安全保障省をワシントンDCの連邦地裁に提訴しました。
その訴状によると、米移民法弁護士会は、2014年11月30日に、FOIA(Freedom of Information Act)のもと、移民局に対して

  1. H-1B抽選の運用手続きおよびポリシー
  2. どのように各申請を認識するのかなど、申請情報入力プロセスを説明した記録
  3. 申請到着時に、抽選の対象とせず申請者に返却する場合の理由などを記載した記録
  4. どのように移民局が年間発給数である一般枠65,000件と修士号枠20,000件の件数を満たしたとするかを説明した記録
  5. 修士号枠に関して、どのように抽選が行われ、移民局がどのように無作為に当選者を選び、修士号枠で選ばれなかった場合、その申請をどのように一般枠に含めるのかを説明した記録
  6. 一般枠に関して、どのように抽選が行われ、移民局がどのように無作為に当選者を選んでいるかを説明した記録
  7. 移民局が、どのように移民局が申請数を数え、使用されなかった枠がある場合はどのように年度内の枠に勘案しているか

という記録・情報を請求しました。

それに対して移民局は、521ページの記録の存在を示しましたが、そのうち127ページは公開されず、228ページ分は部分的な公開のみ、そして166ページのみが全面的な公開という結果でした。この公開状況を不服とした米国移民法弁護士協会は、その後全面的な情報公開を求めて、行政不服審査を起こしました。行政不服審査とは、行政機関の決定に不服の場合に、その決定の再考を求める手続きです。そしてその結果、新たに1ページの全面的な公開と218ページの部分的な公開がなされました。しかし、これでも全面的な情報公開ではありません。行政上利用できる手段を使い果たしても、求める記録・情報が公開されなかったため、米国移民法弁護士協会は、FOIAによって得られるべき記録・情報に接する権利を阻害されたというのが、今回の提訴理由です。
過去10年間は、毎年年度途中でH-1B申請が枠上限に到達しています。そして過去4年間は、最初の5営業日までに枠上限に到達しており、H-1B抽選が行われています。この抽選プロセスは、実態が見えず、ブラックボックスのような存在であると言われてきました。H-1B抽選では選ばれない申請の方が多い中、少なくとも抽選プロセスの公平性は担保されている必要があり、この訴訟は、それを公にするための意義があります。

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118