大切なのは、流行に流されず、伝統の軸を守り続けること。シアトルの老舗寿司店「寿司かしば」で江戸前寿司と日本の食文化の奥深さを味わいたい。
取材・文:西東円佳
寿司かしば/ Sushi Kashiba
「寿司かしば」は、シアトルのダウンタウン、活気あふれるパイクプレイス・マーケット近くに店を構える老舗寿司店だ。半世紀以上にわたってシアトルに暖簾を掲げ、まだ寿司文化が根付いていなかった時代から、江戸前の伝統を伝え続けてきた。日本と似た気候に恵まれたパシフィック・ノ−スウェストの海と大地。その恵みを生かしながら、シアトル流江戸前寿司を表現してきた店でもある。
洗練された店内でのひとときは特別な時間に
店内に足を踏み入れると、オーナーシェフの加柴司郎さんがカウンター越しに客を迎える。55年以上前に渡米し、寿司店が一軒もなかったシアトルで最初に店を開いたパイオニアだ。「日本の文化を紹介したい」という思いから始まった挑戦は、今や多くの弟子たちを育て、この街の寿司シーンを形づくってきた。寿司にしても和食にしても、地元で採れた旬の食材こそが、おいしさを引き出す秘訣だと語る。野菜や果物も、できるだけ地元産のものを選んでいる。
地元産の食材にこだわり、選び抜かれたボタンエビ
そもそも江戸前寿司とは、約150年前の江戸で生まれた握り寿司のこと。江戸湾で獲れた魚を使い、コハダなどを素早く握って供したのが始まりとされる。寿司は新鮮であることが大前提だが、加柴さんによれば「寿司の価値の6割から7割はシャリで決まる」という。米の炊き方、酢の合わせ方、空気を含ませる握り加減など、そのすべてが一貫の完成度を左右する。ネタを引き立て、かつ主張しすぎない絶妙なバランスこそ、江戸前の真髄だ。
江戸前の技を礎にしながら、マグロや白身、貝類それぞれの持ち味を引き出していくのが「寿司かしば」の真骨頂だ。余計な演出はせず、包丁の入れ方や握りの加減に細やかに気を配り、素材そのもののうま味を際立たせる。加柴さんは、地元で獲れる巨大な貝、グイダック(ミル貝の一種)にも50年以上前から着目し、寿司ネタとしてその魅力を伝えてきた。いまでは世界中に輸出される人気食材だが、当時はクラムチャウダーに使われる程度だったという。ローカル食材に光を当て、グイダックに加え、オーシャンスメルト、レイザ−クラムも寿司という形で新たな価値を与えてきた。
春に味わいたい季節もののホタルイカ
もちろん仕入れは信頼する問屋から。その時季にいちばん状態のいいものを見極め、素材本来の持ち味をどう生かすかに心を砕く。つややかな地元産のボタンエビや、日本から輸入した初春の味わいを凝縮したホタルイカなど、目にも美しい一品一品に、加柴さんの細やかな仕事がにじむ。
寿司は今や世界的なブームとなっている。そんな中でも大切なのは、流行に流されず、伝統の軸を守り続けること。世代を問わず、ぜひ「寿司かしば」で一貫一貫丁寧に握られた寿司を味わってみてほしい。
寿司かしば/Sushi Kashiba
86 Pine St. #1, Seattle, WA 98101
営業時間:5pm〜10:45pm 定休:火
☎️206-441-8844
https://sushikashiba.com、instagram: @sushikashiba
















