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ミミズのいる庭〜ゆる〜くSDGsな消費者生活

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

年が明け、1月はずいぶんと冷え込み、雨が続いたが、土の中は着実に春が近付いていたようだ。2月に入り、昨年初めて植えたクリスマスローズがついに花を咲かせた。すこしずつ芽吹いていたチューリップやクロッカス、スイセンにアリウムなんかも、ぐんぐん背を伸ばしている。昨年の球根植え付けシーズンに体調を崩し、もう無理かと諦めかけたが、なんとか頑張って良かったと心から思っている。朦朧もうろう としながらの作業だったせいか、どこに植えたのかも忘れていた。「おお、こんなところにも!」なんてセルフ・サプライズも春っぽい。

▲クリスマスローズのアメリカでの呼び名はヘレボルス。急な寒波による雪と霜で、出ていた花芽がしんにゃりした時にはどうなることかと思ったが、植物というのはなかなかしぶとい

こうして庭いじりをしていると、見つけてうれしいのがミミズだ。土から、あのニョロっとした姿が現れると、小躍りしてしまう。と言うのも、わが家の庭土は引っ越してきたばかりの 2 年前にはカッチコチの粘土質。ミミズの気配はみじんもなかった。地道に土壌改良を進め、ついにヤツらの生息する庭になったかと喜びもひとしおだ。

ミミズと聞くと、土中の有機物を食べ、その排泄物でフカフカの良い土壌を作ってくれる良い虫さんというイメージがある。生ゴミを堆肥化するコンポストもミミズが大活躍し、家庭ゴミが減ることで、焼却処理による二酸化炭素排出の削減にもひと役買っている。たとえば花王は、イトミミズを使って工場排水の汚泥を減らし、環境負荷の削減を試みているらしい。ちょっと気持ち悪い見た目のくせして、ミミズってすごい……。

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◀︎ カナダやアメリカ北東部では、ミミズのいない森の分厚い腐葉層が数千年かけて形成され、さまざまな動植物や菌類の命を支えている。ここワシントン州でも、この「ミミズ危機」はあるのだろうか?

と思いきや、実は小躍りしてばかりもいられない。土壌改良を調べていて知った衝撃的事実。ミミズは、このアメリカでは侵略的外来種だというのだ。

もともとカナダやアメリカ北東部では、ミミズは氷河期に絶滅したまま生息していなかったらしい。落ち葉などが堆積し、それが長~い時間をかけて分解されることで、分厚い腐葉土によるフカフカの土の森を形成していた。そこにミミズが入ってきたことで、有機物があっと言う間に分解されてしまい、地中の微生物のバランスが崩壊。森の生態系に影響を与え、今では北米の昆虫が激減しているって言うじゃない。

サステナブルに消費者であることと、ミミズのいる庭と、北米の森林危機……。あぁ、バランスって難しい。

■Planet Natural「ミミズのコンポスト入門完全ガイド」www.planetnatural.com/worm-composting

オーガニックなガーデン作りに特化した情報や商品を紹介する同サイトでは、ミミズによるコンポストの始め方を7つのステップに分け、とてもわかりやすく説明している。アメリカでも盛んに行われているミミズのコンポストは、ほかにもコーネル大学生産土壌学部によるCWMIプログラムのウェブサイトに詳しい(https://compost.css.cornell.edu/worms/basics.html)。「worm compost starter kit」で検索すると関連商品も多数見つかるので、ぜひお試しを。

■ 花王「ミミズを活用した工場排水処理への挑戦」
www.kao.com/jp/sustainability/eco-approach/making-products/employing-worms

製品製造の過程で大量に出る排水は、環境基準に適合するレベルまできれいな状態に戻し、川や海に流される。イトミミズの寝床となるパイル繊維のシートを浄水過程に入れることで、汚泥になる有機物の分解を活性化させるというシステム。最近は、サステナビリティと声高にうたっていなくとも、さまざまな企業が環境保全のためにより良い方向へと動いているようだ。

■ScienceDirect「ミミズが土壌の微生物に与える影響」www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0038071720302510

2020年10月発表の、ウィスコンシン州ウィスコンシン大学マディソン植物園における、カエデとナラの広葉樹林での調査。アジア圏からのミミズが、以前から同地に生息していたミミズを排除し、土壌の微生物バランス、化学組成を変化させているとのことだ。外来種のミミズは腐葉土層を消費、除去し、森林の生態系の機能に重大な脅威をもたらしている。アジアからどのようにミミズが侵入したのかも気になるところ。

■Biology Letters「ミミズの侵略:北米北部の節足動物の変化」https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2021.0636

1万2000年ほど前から消滅していたミミズが、近年は北米北部の土壌に再侵入しており、環境を変化させ、地上の節足動物(昆虫類など)の生態に影響を与えているとする研究が、2022年3月に発表された。カナダのアルバータ州カナナスキス渓谷、バリア湖北西岸のポプラの森で行われた調査によって、ミミズの生息数の多い地域ほど、節足動物の顕著な減少が認められたそう。植物の受粉を媒介し、鳥や魚の餌となる昆虫類の減少は、ひいては人間の生存にも関わるのだから、これは見逃せない。

 

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨーク市立大学シネマ&メディア・スタディーズ修士。2011年、元バリスタの経歴が縁でシアトルへ。北米報知社編集部員を経て、現在はフリーランスライターとして活動中。シアトルからフェリー圏内に在住。特技は編み物と社交ダンス。服と写真、コーヒー、本が好き。