SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!
今、スポーツにおけるジェンダー平等の取り組みに注目が集まる。そもそも、スポーツでのジェンダー平等ってどういうこと? 日本政府は東南アジア10カ国(ASEAN)との国際協力プロジェクトにより、スポーツを通じてのジェンダー平等を目指しているが、2021年、22年とそのプロジェクト・リーダーを務めたのが野口亜弥さんだ。「ほとんどのスポーツで女子が参加しづらい状況があります。女子チーム自体が希少で、混合であっても男子ばかり。日本でも特に中学生女子がスポーツを行える場が少ないんです。まず部活動で選択肢が限られてしまうと、競うことなく、ただ純粋にスポーツを楽しみたいという子に場がない。実際、中学校の部活動の男女参加率にはかなりの差が見られます」。つまり、男子と同等の多様なチャンスや選択肢が、女子には公平・平等に与えられていないというのだ。
トランスジェンダー女性(以下T女性)の女子競技参加についても意見を聞いてみた。「実は、スポーツでの男女別カテゴリは、男性中心のスポーツ文化の中に女性が参画していく過程で作られたもので、女性解放運動とも連動しています」。もともとが、ただ身体的性差によってできた区別ではなかったとは驚きだ。亜弥さんよれば、T女性の参加の可否はテストステロン値を基準にこれまで決定されてきたが、ホルモンの値だけでパフォーマンスの優劣が決まるという科学的エビデンスはなく、研究や議論自体もまだ十分に蓄積されていないと言う。「女子スポーツにT女性をどう包摂できるのかを議論のスタートにしなければ、スポーツは発展しません。T女性に対して誹謗中傷や差別をすることは絶対にあってはならないんです」
各々の競技の特性を踏まえたうえで、どうしたらT女性が女子カテゴリで公平に戦えるのか、ということを科学的に深め、議論・検討していくべきだと亜弥さんは訴える。「もちろん、それには膨大な時間がかかります。同時に、蓄積されたエビデンスがないからといって、T女性に『不公平』という言葉を浴びせ続けることは人権侵害です。だからこそ、人権教育を通じて、その事実をひとりひとりが理解する必要があります」。人権の尊重・保護のうえで、現状での公平・公正なカテゴリ分けを考えていくことが大事。トランスジェンダーを排除することは、スポーツ発展のためのインクルーシブにつながる議論自体を閉じてしまう、と亜弥さんは危惧する。
今年3月発売のなでしこリーグ2023 年版選手名鑑(左)。ピンクを基調としたいわゆる「女性らしい」デザインだった2016 年版(右)と比較すると、ジェンダーレスなデザインになっていることがわかる
「女性らしさ」という無意識のジェンダー・バイアスにも問題提起した亜弥さん。「たとえば、日本の女子サッカーリーグのビジュアル素材にはピンクが使われがち。でも本当は、サッカーをしている女性たちって実に多様なんです」。亜弥さんは、誰もが「ありのままの自分」でいることが肯定される社会の実現に向け、まい進し続ける。
■「女性らしさから、ありのままの自分へ」プロジェクト
https://youtu.be/pdpfS16YCnc
昨年、日本サッカー協会や日本女子プロサッカーリーグのWEリーグ全面協力の下、亜弥さんが主導する2団体、プライドハウス東京とS.C.P. Japanが啓発動画を制作。WEリーグ、なでしこリーグに所属する現役サッカー選手(2022年時点)の7人が「自分」を表す色について語っている。選手たちへのインタビューを通じ、世の中に存在する「女性らしさ」を問う試み。
■成城大学スポーツとジェンダー平等国際研究センター
www.seijo.ac.jp/research/sge
今年4月1日に開設されたばかり。多様なジェンダーや性の平等と、そのための国際協力を実現するスポーツの役割について専門に研究する、まさに最先端の機関。亜弥さんが研究テーマとしている「開発と平和のためのスポーツ」の分野において、ジェンダーやセクシュアリティーの課題に着目し、特にASEANおよび東アジア諸国と連携を取る国際学術拠点だ。
■IWG
https://iwgwomenandsport.org
1994年にイギリスのブライトンで開催された「第1回世界女性スポーツ会議」の際に設立。女性とスポーツのための国際ワーキング・グループとして、スポーツにおける女性の地位、役割の向上を目指す政府組織と非政府組織の統合団体だ。スポーツのあらゆる分野での女性参加を求めた「ブライトン宣言」を採択以降、行動を起こすことを世界に呼びかけている。