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日系オリンピアンが語るレジリエンスの高め方

12月16日、50歳以上を対象に年齢に応じた生き方を選択できるよう支援活動を行う全米最大の非営利団体、AARPの主催で「Leading with a Champion Mind−チャンピオン精神で切り拓く」と題した日系オリンピアンによるパネルディスカッションがオンラインで開催されました。

取材・文:シュレーゲル京希伊子
写真:AARP提供

冬季五輪のメダリストが顔をそろえた豪華なパネルディスカッション。冬季五輪3大会に出場し、通算8個のメダルを獲得したスピードスケートの金メダリスト、アポロ・オーノ氏が司会を務め、パネリストにはアルベールビル五輪フィギュアスケートの金メダリスト、クリスティー・ヤマグチ氏、平昌五輪アイスダンスで2個の銅メダルに輝いた兄のアレックス・シブタニ氏と妹のマイア・シブタニ氏が迎えられた。4人は競技生活を通し、どのようにレジリエンス(苦境に負けない折れない心)を高めてきたかについて、50分以上をかけ話し合った。

アメリカ男子選手として冬季五輪史上最多のメダル保持者であるオーノ氏は、現在では慈善活動家や著述家としての顔も持つ。「周囲の目を過剰に意識して反応してしまう時代」とインターネットが生活に浸透している今の状況に触れ、自身が現役の頃にメンタルの状態を整え、的確な判断力を養ううえで効果があったのは、「いったん立ち止まり、振り返ること」だったと明かした。そして「心が勝手に反応してしまうと感じるときは一歩引いて、より遠くから眺めることで違う視点を得られます」と、自分を見つめることの重要性を説いた。

パネルディスカッションの様子左上から時計回りにクリスティーヤマグチ氏アレックスマイアシブタニ兄妹アポロオーノ氏

「誰かに助けを求めることを恐れないでください」と話すのは、ヤマグチ氏だ。恵まれない子どもたちの読み書き能力向上を目指す非営利団体、オールウェイズ・ドリームを25年前に創設以来、現在も代表として積極的に活動する。「私たちは何でも自分でやろうとしてしまう。でも、実は多くの人が喜んでメンターになってくれることを、私はこれまでの経験で学びました」と、思い切って弱さをさらけ出して欲しいと訴える。また、「誰かに頼ると迷惑がかかるかもしれない、と気が引けるものですが、今の私があるのは決して私ひとりの力ではありません。サポートしてくれる人の存在が常にあったからです」と述べ、これまでの半生を振り返った。何かに挑戦するにはリスクや失敗がつきものだが、「そのときは怖くても、快適な空間を飛び出してこそ大きな成功をつかめます」と、確信を込めて語った。

現在、多くの人がコロナ下でさまざまな変化を余儀なくされているが、新しいことに挑戦するにはどんな心構えが必要だろうか。そう問われて、アレックス・シブタニ氏はこう答えた。「新しいことに挑戦するときは、どんなことでも必ず実現可能な計画を立てます。長期的な目標に向かう途中には、必ずいくつものチェックポイントを設けます」。さらに「計画を口に出して、他人と共有します。自分の中に潜む恐怖心を分かち合い、目標達成を一緒に祝える人がいれば、孤独を感じることは少なくなります」と述べ、コロナ下においては人との精神的な結び付きが特に重要だと強調した。

それを受け、マイア・シブタニ氏は「まず、自分がどこに向かいたいのか知ること。時間を区切り、目標を小さく分けて設定すると、方向性を見失わずに済みます」と、こまめに自分の状態を確認することの大切さについて言及。また、変化を起こすことは簡単ではない、とも付け加える。「忍耐が必要。自分のしてきたことに自信を持ち、感謝の気持ちを忘れないことが助けになります」

最後に、オーノ氏は「変化は成長に欠かせないもの。変化を受け入れることが大切」と述べ、「自分の気持ちに火をつけられるのは自分しかいません」と力強く締めくくった。パネルディスカッションの実録は、フェイスブック(www.facebook.com/watch/?v=2066590476828231)にて公開されている。

フリーランス翻訳家・通訳。外務省派遣員として、92年から95年まで在シアトル日本国総領事館に勤務。日本へ帰国後は、政党本部や米国大使館で外交政策の調査やスピーチ原稿の執筆を担当。キヤノン元社長の個人秘書、国連大学のプログラム・アシスタントなどを経て、フリーに転身。2014年からシアトルへ戻り、一人娘を育てながら、 ITや文芸、エンタメ系を始めとする幅広い分野の翻訳を手がける。主な共訳書は、金持ち父さんのアドバイザーシリーズ『資産はタックスフリーで作る』など。ワシントン州のほか、マサチューセッツ、ジョージア、ニューヨーク、インディアナ、フロリダにも居住経験があり、米国社会に精通。趣味はテニス、スキー、映画鑑賞、読書、料理。