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ジブリ作品と歌 前編〜晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして 第44回

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

ジブリ作品と歌 前編

2023年にアメリカでも公開された、スタジオジブリの最新作「君たちはどう生きるか」はもう観ましたか? 日本が戦争に向かう1937年発行の吉野源三郎による児童小説をタイトルの由来とし、内容的にも影響を受けているとされます。少年が社会で人間としてどう生き抜いていくかを問いかける素晴らしい作品です。

1984年、「風の谷のナウシカ」で日本のアニメ映画界に衝撃を与えた宮崎 駿監督。スタジオジブリがこれまでに世に送り出してきた作品と共に育ってきたという人は多いのではないしょうか。もちろん、私もそのひとりです。ジブリ音楽のファンもたくさんいますね。今回はスタジオジブリ主要作品の主題歌についてお話ししたいと思います。

「風の谷のナウシカ」のテーマ曲を歌ったのは女優の安田成美。ただ、劇場版でこの曲が流れることはなく、その理由についてさまざまな憶測を呼んでいます。安田の声は透明感の中に若々しい力強さがあり、主人公のナウシカと重なります。歌唱力については賛否ありますが、歌手デビューしたばかりだからこその初々しい印象。元はっぴいえんどのメンバーであるふたり、細野晴臣が作曲、松本 隆が作詞を担当し、数多くのアーティストにカバーされています。今年、安田本人によるリメイク版もリリースされました。

1986年の「天空の城ラピュタ」の主題歌「君をのせて」を歌ったのは歌手の井上あずみです。作曲は久石 譲で、同映画のイメージアルバムにある楽曲「シータとパズー」をアレンジしたもの。作詞は宮崎監督です。井上の歌声には歌唱力と表現力の両方が備わり、ジブリ主題歌にぴったり。その後も1988年の「となりのトトロ」エンディングテーマ「さんぽ」、1989年の「魔女の宅急便」挿入歌2曲、「めぐる季節」と「魔法のぬくもり」を歌っています。

その「魔女の宅急便」のテーマ曲は、松任谷由実の「ルージュの伝言」と「やさしさに包まれたなら」。いずれも荒井由実として発表した70年代の曲が採用されました。松任谷の歌声もこの2曲の世界観も、魔女として独り立ちする主人公、キキのテーマとしてふさわしいものです。

さて、「となりのトトロ」と同時に公開された「火垂るの墓」では? 原作は作家・野坂昭如の戦争体験を元にした作品で、親を亡くした幼い兄妹が終戦前後をどう生きたかが描かれます。実は、この映画に主題歌はありません。監督の高畑 勲は、イギリスのオペラ曲の一部で、日本人に昔からなじみのある「埴生の宿」を挿入歌として選びました。

映画のメッセージを音楽によってどう伝えるか、どんな世界観を築き上げるか、作品によってアプローチが違うのも面白いですね。次回、中編に続きます。

横浜生まれ東京育ち。大学院進学のために2015年に渡米。2020年よりロサンゼルス在住。南カリフォルニア大学大学院の博士課程にて日本の戦後ポピュラー文化を研究。歌謡曲と任侠映画をこよなく愛する。