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歌は世につれ世は歌につれ〜晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして Vol.42

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

歌は世につれ世は歌につれ

歌が世の中のありさまを表し、世の中もまた歌にあるような世情をたどるとする「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉が知られます。90年代より前、J-POPではなく歌謡曲が主流だった時代は、この言葉も現実味がありましたが、今はどうでしょうか。

タワーレコードによる2023年のアルバム売り上げランキングを見てみると、1位からSnow Man、King & Prince、SixTONES、JO1、なにわ男子と、5位まで歌って踊れる男性グループが占めています。しかもJO1以外は全て旧ジャニーズ事務所(注:新会社としてスタートエンターテイメント発足を発表)のアーティストです。旧ジャニーズ事務所に関するニュースが世の中を騒がせたという事実はありますが、2023年という年を俯瞰的に捉えたテーマはこのランキングからは見えてきません。シングル売り上げでも、JO1に代わって、その弟分であるINIがランクインしただけで、ほかは同じ顔ぶれです。おそらく、男性グループのファンの傾向として、推しの応援はもちろん、ノベルティなどの特典を手に入れる目的でCDを購入することがあるからではないでしょうか。

それでは、2023年度上半期のシングル曲ダウンロードのランキングはどうでしょう。アーティスト名だけ列挙すると、1位からYOASOBI、Official髭男dism、10-FEET、MAN WITH A MISSION×milet、米津玄師と続きます。アニメ作品のテーマ曲やTVドラマの主題歌が多く、ロックバンドやネットから人気に火がつくケースなど、CDランキングとは全く違う傾向が見えてきます。いずれにしても、これらの楽曲から世の中のことはあまりわからないかもしれません。

一方、50年前のヒット曲事情を調べてみると、1974年のシングル売り上げ1位は殿様キングスの「なみだの操」です。なかなかユニークなグループ名ですが、もともとコミックバンドとしてスタートし、後に歌謡コーラスグループに転向しています。男性ボーカルで涙ながらに復縁を乞う女性の心情を歌い上げ、大ヒットしました。ちなみに前年の1973年には、音曲漫才出身のグループ、宮 史郎とぴんからトリオの「女のみち」、「女のねがい」という女心を歌った曲が年間ランキングの1位と2位を独占しています。ここに顕著な傾向、男性コメディアングループによる女心の表現から時代性が読み取れるでしょうか。

ここでは全てを語り切れませんが、音楽表現も視聴の仕方も多様化した現代と比べて、50年前は歌と世の中がよりはっきりした写し鏡だったのでは、と想像します。

横浜生まれ東京育ち。大学院進学のために2015年に渡米。2020年よりロサンゼルス在住。南カリフォルニア大学大学院の博士課程にて日本の戦後ポピュラー文化を研究。歌謡曲と任侠映画をこよなく愛する。