第48回 YOUR SONG
ラジオからエルトン・ジョンの「ユア・ソング」が聞こえてきた。懐かしい。この曲は私がアメリカに来るきっかけになった前夫と知り合った頃、彼から送られたLPに入っていた。1972年ごろのことか?
ヒッピー時代の終わりころ、私たちは6年間の遠距離恋愛を続け、やっとシアトルで一緒になった。結婚したかと思ったら、「やっぱり英語をちゃんと話せる人がいい」と言い出した彼。図書館員の資格を持つ彼は、読んだ本の読後感を語れる相手と一緒にいたいとさりげなく離婚を提案。こっちは日本でいい仕事を辞めて、盛大なさよならパーティーをしてきたというのに。「こんな奴と今後50年も一緒にいるより、もっといい人を探そう!」と承諾。1年半の結婚生活にピリオドを打った。
ヒッピー時代の人間は、トラブルより好きなことをして、他人にも好きなことをさせるのが「平和」と考える。相手を尊重しているように見えて、実は責任逃れなのだけれど、若い時は分からない。フラワー・チャイルドの時代「Make Love, Not War」。どうせベトナム戦争に行かされて死ぬんだから、思い付きで好きなことをやるのさ、って時代。でもみんなわりと穏やかだったなぁ。前夫は私がフランスにいた時、誕生日に50本くらいの赤いバラの花束を送ってくれたりして。でも花はいつかは枯れるものさ。
その、「ユア・ソング」は日本語では「僕の歌は君の歌」と訳されている。うまく言えない若者の気持ち、「シンプルだけど、言葉にして書いちゃったけど、いいかな? 君がいる限り、この世界は素晴らしい」って、そんな歌だ。
三くだり半をもらった彼のことを思い出すのが嫌だ、と50年近くも聞いていなかったが、ラジオからの音色に、不思議と彼の嫌なことも良かったことも思い出さなかった。自分が若かったころ、何が好きだったか、どんなふうに生きていたか、着ていた洋服や靴まで思い出したのだ。あの頃流行っていたお店、レストランなどなど。
送られた曲は「僕の歌は君の歌」。私の勝手な解釈でもオッケー! ってことね。