第49回 アメリカ国歌:星条旗
私はアメリカの国歌が好きだ。領地争いの戦場で兵士が立てた国旗、白み始めた空にたなびいている星条旗を、間近で命を落とした戦友(の魂)と共に、遠くから眺める勇敢な兵士たちの安堵感、やり遂げたという誇り。以前、姉妹紙・北米報知のコラム「静かな戦士たち」で、収容所から志願してヨーロッパの戦場に向かい、全米で最高の勇士に捧げられるパープル・ハーツを受賞した日系米兵「イエス・イエス・マン」とのインタビューを通して彼らの心情を書いた。アメリカ人としての、自由と勇気の象徴が感じられる歌だ。アメリカの国の勝利をうたっているのではない。
先日、フットボールの全米1位を決めるスーパーボウルをテレビで観戦した。スポーツの試合ではゲーム開始前に必ず全員起立で国歌斉唱が行われる。私が属していた黒人のクワイア(合唱団)もいろいろなスポーツゲームに呼ばれ、国歌を歌った。イチローが始球式をした2022年のマリナーズのゲーム、シーホークスのフットボール、バスケットボール、アマチュアキックボクシングなどなど。
昨日のゲーム開始の前に歌手が歌いだして、フーっと昔のことを思い出してしまった。あれは、ワシントン大学の女子バスケットボールの国歌斉唱に行ったとき。試合が始まり、出番は終わったので帰ろうと駐車場へ行ってみると、私の車がない! すぐそばでレッカー車が私の車を載せて、発車しようとしている。あわてて何が起こっているのか聞いてみる。
「ちゃんと駐車代、払いましたよ」
「ゲームのある日は違ったやり方で支払うんだよ。だからレッカーする指示が出た」
「そんなこと、どこに書いてあるんですか?」
指さした先は暗くて、何も見えない。
「今、国歌斉唱をしてきたんです。私たちが歌わなかったら、ゲームは始まらないんですよ。別にゲームが見たくて来たわけじゃないのに」
「そうなのか……」
と車を下ろしてくれることになった。
歌ってくれたら見逃してやる、ということで、その広い駐車場で一曲歌うことになってしまった。さて、何の曲? もちろん、今歌ってきた国歌だ。思いっきり、
「O say can you see, by the dawn’s early light, What so proudly……」
「オッケー、オッケー、もういいよ」
みんなに見られて恥ずかしそうだ。そんなわけで、180ドルは払わなくてもいい、ということに。
星条旗のパワーだね。