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お留守番〜みきこのシリメツ、ハタメーワク

第24回 お留守番

娘の友人宅を訪れた。赤ちゃんともうひとり、3歳のおにいちゃんがいる。電車が大好きな子で、英語にも興味がある。保育園から帰ってきて、娘に英語の発音を聞かせて欲しいと電車を持ってくる。

「パンタグラフってなんて言うの?」
「なにそれ?」

アメリカに住んでいると、パンタグラフなんて知らない。電車に乗らないし、電車なんて、玩具の中には入っていない。息子の子どもの頃、アメリカではそんなもの見なかった。男の子の玩具はもっぱらミニカーか機関車トーマス君である。

「なんだろうね? Overhead Wiring?」

でも、あのひし形の形をした部分は? 気に留めたこともなかった。いやはや子どもの観察力には参ってしまう。

楽しく騒いで、おいとまの時間になると、母親がおにいちゃんに聞いている。

「シンちゃん、ちょっとそこの薬屋さんに行ってくるけど、一緒に来る? それともお留守番してる?」

シンちゃんはちょっと考えた後、

「お留守番する」

それを聞いて私は、

「えっ、3歳でお留守番していいの? アメリカじゃあ、捕まっちゃうよ」

と、さりげなく言ったのが大間違い。私自身、アメリカの事情を知らず、カーシートで寝てしまった息子をほんの数分間車に置き去りにし、お巡りさんから怒られたことがある。ちょっと頼んでおいたコートをピックアップと、窓を少し開けてモールの中へ入り、出てきたらパトカーと野次馬が集まり、その騒ぎに起こされた息子は恐怖におびえ泣き叫んでいた。

その、シンちゃんは急に険しい顔になり、

「お巡りさんが来たらどうしよう!」

明らかに3歳児の注意力、理解度を軽く見ており、恐怖心を与えてしまったのだ。これを正さないとトラウマになりかねず、今後お留守番はできなくなってしまうかもしれない。一大事!

「日本の子どもはね、やっちゃいけないこととか知っているけど、アメリカの子はダメって言われていること、お母さんのいない時にやっちゃうかもしれないから、ひとりでお留守番はできないの。日本は大丈夫なのよ。ここは日本だからね」

などと、訳のわからない理屈を子どもにわかるようにこね上げた。実際捕まるのは親であるが、シンちゃんは自分が捕まるものと解釈してしまったようだ。

母親と一緒の説明をどうやらわかってくれたようで、お留守番をする、と言う。

「やっぱり、おにいちゃんだからね」と、母親は赤ちゃんを抱えて外出。クワバラ、クワバラ。

東京都出身。2000年から2005年まで姉妹紙『北米報知』ゼネラル・マネジャー兼編集長。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。2020年11月に日本に帰国。同年、著書『ゼッケン67番のGちゃん』を刊行。