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医療費無料も善し悪し? 〜シニアがなんだ!カナダで再出発

シニアがなんだ!カナダで再出発

在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。

医療費無料も善し悪し?

ジェームズがヘルニア手術を受けた病院長く待つことを除けば全体的に親切な応対施設は必要最低限のミニマムな感じ

73歳になって医療機関の利用が増えてきたが、幸い大した世話にならずに済んでいる。カナダに移住して8年で、白内障手術を経験したくらい。そんな中、4月に相棒のジェームズがヘルニア、いわゆる脱腸と診断される事態に。カナダで専門医にかかるにはかかりつけの家庭医の紹介が不可欠で、外科医に連絡が行ったまでは良かったが、「2カ月後に外科医から電話がある」と言われた。「カナダでの手術は」と聞いていたが、こういうことかと悟る。

近所のウォークインクリニック予約がなくても利用でき小さな病気やけがを診てもらうには便利パンデミック中はビデオ診療も実施されている

その外科医との電話インタビューにたどり着くにもひと苦労。約束の時間帯に2時間待っても連絡がなく、あきらめた5分後に実はかかってきていたなど不都合が重なり、手術をすることが決まるまでに4カ月が経過。外科医は忙しいらしい。今度は手術の日程が決まらず、「通常は3カ月から6カ月後」と言われてガックリ。「ドタキャン待ちでも早くお願い」と伝えておいたところ、キャンセルが出て、ようやく手術日が決まった。最初の診断から6カ月。急を要する患者が出たら後回しにされる可能性もあったため、その点は幸運だった。

ジェームズを手術のため病院に送った早朝7時息をのむほど美しい朝焼けを目にししかもレストランでアーリーバードスペシャルのお得な朝食にもありつけた早起きは三文の徳とはよく言ったもの

カナダの医療は国民皆保険制度で原則自己負担はなく、税財源で公的に負担される。バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州の場合は「メディカル・サービス・プラン(MSP)」と称し、2018年まで一般住民は月額75ドルの基本保険料を払って加入していたが段階的に減額され、2020年からついに無料化。ただし、歯科診療、処方薬、一般診療ではないカイロプラクターなどにかかる場合は自己負担となる。補てんする民間保険に入ると負担が軽減され、さらにシニアや低所得者には援助が出る。年次健康診断もMSPで無料だったのが数年前から有料化された。先日受けた時は、血液検査込みで160ドル。

救急外来のあるダウンタウンの総合病院6時間待たされても州の保険に入っていれば医療費は無料ちなみに自分がシアトルで追突事故に遭った時は病院ですぐ診てもらえたが保険があっても請求書の額にはびっくり

保険料も医療費も無料なのはシニアにとってありがたい。しかし、医療機関へのアクセスが限られ、待ち時間が長いのは問題か。専門医の医療ばかりか、CTやMRIの検査も、悪性など緊急でもない限り受けられるまで数カ月を要する。かかりつけの家庭医を持たない場合、ウォークイン・クリニックで受診できるが、高額医療機器の設備はほぼない。夜間や週末、あるいは重症の場合は、総合病院の救急外来(ER)で受診。ただし、緊急性が低いと判断されてしまうと、とにかく時間がかかる。数年前、ピックルボールの球がジェームズの目を直撃した時は、痛みに苦しむ中、各検査を経て最終診断が下されるまで6時間かかった。

待ちに待った手術終了を祝いジェームズと近くのインド料理屋で昼食バンクーバーはインドからの移民が多いせいか本格的なカレーが食べられる

さて、ジェームズの手術は無事終わった。2週間経った現在、普通に外出ができる程度までに回復した。もっと早ければ、より簡単な手術で済み、回復までも短かったろうに、と無念がる。手術当日、ジェームズを送り届けた際に待合室で話した女性は、2年半待って副鼻腔炎の手術を受けると言う。ジェームズと同様、「待つ間に緊急事態が生じれば911に連絡を」と言われたそう。緊急事態に至らない場合はそのまま苦しみ続けよ、と言われているかのようだ。

滋賀県生まれの団塊世代。京都産業大学卒業後日本を脱出。ヨーロッパで半年間過ごした後シアトルに。在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務。政治経済や広報文化などの分野で活躍。ワシントン大学で英語文学士号、シアトル大学でESL教師の資格を取得。2013年10月定年退職。趣味はピックルボールと社交ダンス。