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シニア・テレビっ子、日本社会に物申す

ふと気づけば日本に15年も帰っていない。今年こそはと思いつつ、年が暮れてしまう。今や日本との交流は実の兄弟とその家族、2〜3人の友人のみとなり、縁が薄くなったこともある。しかし私の心はいつだって日本にある。
私の何よりの楽しみは、日本のテレビドラマや歌謡番組、情報番組を観ることだ。そんな「シニア・テレビっ子」の私が、テレビから感じる最近の日本事情について意見を言わせていただく。

テレビを観ているとまず目につくのが、日本の多くの政治家や年配歌手、大学教授までが髪を真っ黒に染めていること。身ぎれいにするのと、髪の色を老後も黒く保つのとは違う。顔にできた皺の数とつり合いが取れなくなって、不自然に感じられてならない。薄くなった髪が漆黒に染められ、その生え際に白髪が覗くに至っては何とも悲しく、肌に近い部分がレンガ色になっているのは摩訶不思議。髪を黒く染めるのは、若く見られたいと思う気持ちの現れなのだろうか。シニアになったら積み重ねた各自の経験を生かして、中身で勝負してほしい。かと言って八代亜紀のような茶髪もいただけない。どうせ染めるなら無難な黒や茶色ではなく、いっそ瀬川瑛子のド金髪や、美輪明宏のド黄色などにして、身なりにインパクトを加えるほうがずっと格好良い。

瀬川瑛子は決して趣味がいいとは言い難いが、年を取るにつれ自分なりの個性を出して居直っている彼女は立派で、かつ幸せそうである。特徴ある間延びした話し方と奇抜な衣装がアンバランスなのも面白い。シニアたるもの彼女のような姿を目指したいものだ。

私は連続ドラマを観るのも大好きだ。ドラマを見ていると、日本社会について考えさせられる。例えば最近終了した「砂の塔」。高層分譲マンションに引っ越してきた主人公家族の主婦が、同ビルの主婦連会長から目の敵にされるくだりに見られる、日本のいじめ社会だ。主人公の主婦の、日本人特有のナイーブさにイライラ、何とかしてよと思いつつ、ついつい続きを観てしまう。思うに日本は、かつて大ヒットしたドラマ「おしん」時代から何も変わっていないのではないか。

そして現代の日本世相が学べるのは、プロパガンダながらも面白く仕上がっているNHKの「Cool Japan」。北米に長く住んだ私は、この番組の外国人出演者が自身のお国事情と日本のそれを比較するのを聞いて、なるほどと思う。観るたびに日本の良さを再発見し、次回帰国の折にはぜひ体験してみたいと思う。

しかしこの番組の日本人司会者は、話しぶりが傲慢なのが非常に鼻につく。「おい、お茶、新聞」とでも言いそうな古い日本男性の癖をさらけ出しいて、まるで日本の嫌な面が映し出されているようだ。完全に時代錯誤とも言えるこんな男性が、きっと現代日本にはまだたくさんいるのだろう。

私のお気に入り番組「団塊スタイル」は衣食住にまつわるトピックを取り上げており、シニア・ライフを楽しむには欠かせない。男性司会者が髪を染めていないのは、シニア用番組にふさわしく好感が持てる。しかし残念ながら出演者であるシニアのほとんど、特に女性は全員髪を染めている。年の流れに逆らわず自然なシニア・ライフを楽しむような日本人は稀有に違いない。

さて、ひと通り日本社会に物申したが、ひとつだけ気になることがある。私の日本の友人や家族はみな口を揃えて「日本は変わったよ」と言うのだ。もしかすると私が感じている日本社会とは、テレビの中だけの世界なのかもしれない。時代錯誤はむしろ私のほう? シニア・テレビっ子、次回日本に帰る時は「浦島太郎」になっていないことを願うのみである。

[カナダで再出発]

滋賀県生まれの団塊世代。京都産業大学卒業後日本を脱出。ヨーロッパで半年間過ごした後シアトルに。在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務。政治経済や広報文化などの分野で活躍。ワシントン大学で英語文学士号、シアトル大学でESL教師の資格を取得。2013年10月定年退職。趣味はピックルボールと社交ダンス。