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脳疾患に口腔内細菌が関連?〜健康な歯でスマイルライフ第189回

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

脳疾患に口腔内細菌が関連?

脳膿瘍のうのうよう は脳内に膿がたまる病状を指し、致死率 15 ~ 20% の深刻な疾患です。発生率は先進国で 10 万人に1人未満と、頻繁に見られるわけではありませんが、脳に炎症が起こって脳神経にダメージが及び、てんかんを始めとする深刻な後遺症が出るなど、厄介な病気です。

脳に隣接する耳、鼻、口腔、または頭部の外傷などから細菌が入り込み、感染が波及して発症する場合が多いと言われます。心臓や肺などの離れた臓器で感染症を起こした場合でも、血流に乗って脳にまで感染が及び、脳に膿がたまることがあります。

最近、英国のプリマス大学の研究により、この脳膿瘍と口腔内細菌の関連を示す可能性が示され、注目を浴びています。今回はこの研究について詳しく解説していきたいと思います。

脳膿瘍患者を調査してわかったこと

英国のプリマス大学の研究グループは脳膿瘍と口腔内細菌の関連を調べ、論文(J Dentistry 128 (2023)104366)を発表しました。2002 年 6 月から2018 年 6 月までの12 年間、英国内で脳膿瘍により入院した87 名について、脳膿瘍および末梢の細菌培養から得られた細菌学的データを調べたものです。

対象となった 87 名中、女性は 34 名、男性は53 名で、平均年齢は55 歳でした。感染源がわかった 35 名のグループ、感染源を同定できなかった 52 名のグループに分け、各々において口腔内に常在する細菌が検出されるかどうかを調査しました。

その結果、 2 グループを比較すると、 感染源を同定できなかったグループにおいて、口腔内細菌が検出されたケースが多いのに対し、感染源がわかったグループでは、口腔内細菌が検出されないケースのほうが目立ったとのことです(口腔内細菌の検出率で、統計学的な有意差あり)。ちなみに、感染源を同定できなかったグループで圧倒的に多く検出された口腔内細菌は、ストレプトコッカス・アンギノーサス(S. Anginosus)と呼ばれる種類でした。

研究結果が意味することは?

脳膿瘍の感染源を同定できなかったグループにおいて、口腔内細菌がより多く検出されたことは、何を意味するのでしょうか。

この研究結果は、これまで脳膿瘍の感染源がわからないとされたケースでも実は、口腔内の感染症が原因として隠れている可能性を示すものです。口腔ケアおよび口腔清掃の全身への健康における大切さを、よりいっそう際立たせることになったと言って良いでしょう。

まとめ

このほかにも、口腔を健康に保つことが全身の健康につながるという研究報告は増えています。日頃の口腔ケアを怠らず、健やかな暮らしにつなげたいものですね。


参考:口腔内に常在する細菌
anginosus, Porphyromonas oris, Veillonella stypica, Porphyromonas gingiviti, S. viridas, Fusobacterium, Aggregatibacter, Actinomuces

福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748