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補聴器を正しく使う

今回は80代後半の男性についてお話ししよう。彼は大手の会社の元社長で、今は社長の任を退いて会長の座にいるようだ。彼の秘書曰く、彼が使用している補聴器の左側のチューブが取れてしまい、付けられなくなってしまったとのことだった。補聴器の名称を聞いたところ、今は製造していないものだった。とにかく見ないことには状況が分からないので、予約を入れてもらった。

予約当日、彼は時間通りにやってきた。問題の左側の補聴器を見せてもらって愕然。今まで見たことがないような方法で、耳の後ろにかける補聴器と耳の中に入れるチューブが繋がっていた。写真を撮って、その補聴器会社の人間と、このパーツがあるかどうか、この補聴器はこんなやり方なのか確認したところ「見たことがない」との回答が返ってきた。これは正規のやり方ではないと言う。念のために右側も見せてもらうと、右側は正しいパーツが付いていることが分かった。それを基に、左右ともに正しいパーツを注文することになった。

補聴器会社との話が一段落したので、待合室にいた彼を部屋に通した。左側の状況を説明すると、彼は「担当してくれた人が、その時に適切なパーツがなかったので、近くにあったものを適当に繋ぎ合わせたようだ」と、別に大したことでもないかのように言った。補聴器を買ってから一度も見せに行かなかったようで、そのままの状態で4年間使っていたらしい。耳に入れていた部分は濃い黄色に変色していて、耳垢もかなり溜まっていた。だからリモートコントロールを使って、音の調整を頻繁にしていたそうだ。彼には、左右反対に補聴器が設定されていることや、二つの補聴器の色が異なることを告げた。長い間フォローアップをしなかったことは彼にも責任があるが、異なる色の補聴器を提供されているのに、それを告げられず、また左右の見分け方も知らされていないとはどういうことだと、彼が気の毒になった。注文したパーツはすぐに到着し、彼は数日後に再度やってきた。補聴器を本来あるべき姿に戻し、最近の聴力検査をもとに、音の調整を行った。左右の見分け方を説明し、毎日の手入れについても説明した。最後に、購入したところになぜ行かなかったのかを尋ねたところ、店をたたんだとのことだった。どこで購入したのかもよく覚えていない様子だった。彼の補聴器は彼の名前で登録されておらず、保証期間のことなども知らなかったようだ。

補聴器は眼鏡とは異なる。内部に電子部品が搭載されていて、耳垢や汗やほこりで壊れたり、音が出なくなることもある。素人が勝手に掃除をして、おかしくなることもある。無償修理期間が決まっていて、クリニックや補聴器販売店では、この修理期間が過ぎるとサポートを終了するところが多くある。通常、補聴器の寿命は5年~7年とされているが、私の患者様で10年以上使っている方もいる。また補聴器は、毎日使うことで聴力レベルの維持や認知症予防にも効果があるとされている。毎日使用すると補聴器は汚れる。汚れたまま放っておくと、問題が生じる。補聴器は定期的にきれいにして、長く使っていただくことを勧める。

[耳にいい話]

ワシントン州と米国認定のオーディオロジスト。ワシントン大学で Speech and Hearing Sciences: Communication Disorders で学士号、Doctor of Audiology プログラムで聴覚博士号を取得。2012年にPAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) を開業。 PAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) 1605 S. Washington St. Suite 6, Seattle, WA 1370 116th Ave. NE, Suite 201, Bellevue, WA ☎ 425-455-0526