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「介護者さんカフェ」へようこそ〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療施設で今、私たちができることを探ります。

「介護者さんカフェ」へようこそ


ソイソース読者の皆さん、初めまして。在米日本人、日系人の健康と医療を支えるコミュニティー「FLAT・ふらっと」の新プログラム、「介護者さんカフェ」でファシリテーターとしてお手伝いするテキサス州在住のジャーナリスト、片瀬ケイです。
介護者とは、英語で「ケアギバー」のこと。自分も家族も幸い元気でいるという場合、ケアギバーと聞いてもピンと来ない方は多いのではないでしょうか。でも、長い人生の中では、自分や家族がさまざまな疾患、けがで助けを必要とする日がいつ来てもおかしくありません。
大切な家族が助けを求めているなら、何かしてあげたいと思うもの。それは誰しも同じですが、在米日本人、日系人ならではの苦労や制約に直面することも。また、介護が長期にわたる場合には、介護を受ける側、する側のそれぞれの人生についてバランスを考えていくことも大切になってきます。
私は15年ほど前に米国で卵巣がんの診断を受け、手術と5カ月にわたる化学療法を受けている間、配偶者にいろいろと助けてもらいました。昨年は、日本で大腸がん治療を続けている高齢の母に認知障害が発覚。ひとり暮らしの母の生活をどう支えていったら良いのかと、途方に暮れる経験もしました。
卵巣がん治療の際は、がんと診断されたショック冷めやらぬまま、自分の病気や治療法について、医学英語を辞書で必死に調べながら医師の説明を理解しなければなりませんでした。開腹手術なのに3、4日で退院と言われ、這うように帰宅したことも。仕事の調整や長期休業保険の手続きをする中、調べれば調べるほど謎が深まる米国の医療保険制度にはうんざりさせられました。
一方、抗がん剤で大腸がん治療をしていた母は、認知障害で日時の感覚がなくなると、適切な服薬も通院もままならない状態に。金銭管理、食事の準備、火元の管理ができなければ、がん治療どころか、ひとり暮らしも難しくなります。日本に介護保険制度があることは知っていましたが、もう27年も日本を離れて暮らしている私は、制度の利用について一から調べなければなりませんでした。
やはり母国を離れて暮らす分、自分や家族が病気になった時にわからないこと、不安なことが山ほど出てきて、心の中でどんどん膨らむと孤独感も強まります。これは介護される側も、介護をする側も同じでしょう。両者とも自分たちの日々のことだけに集中して、孤立を深めてしまうこともあります。
私もがん治療時、たとえ配偶者であっても、周りの人と話をしていてどこか「がんを体験したことのない人にはわからない」という気持ちがありました。また、日本にいる母の認知機能が急速に悪化していった時も、「同じように経験したことのない人には、この窮状はわかってもらえない」といういら立ちを覚え、孤独感にさいなまれました。
しかし最終的には、少しずついろいろな人と話したり、情報収集をしたりすることで、「なんとかなるかも」という気持ちが湧いてきました。特に、同じような経験をした人に体験談を聞いたり、相談に乗ってもらったりすることで、気持ちが落ち着きます。つらい境遇に置かれているのは「自分ひとりじゃない」と実感できるからでしょう。
「FLAT・ふらっと」で始まった「介護者さんカフェ」も、そんな気付きを提供できる場になればと願っています。いつも何かと忙しい介護者の皆さんが、似たような経験をしている人とちょっとおしゃべりしてみたい時に、オンラインでどこからでも集えるサロン。介護の状況は家庭ごとに違いますし、「介護に正解はない」とも言われます。それでも、仲間との会話を通してヒント、笑い、相通じる気持ちを得られたら、「とりあえず明日も頑張ってみようか」と思えるのではないでしょうか。飲み物は自前になりますが、ふらっとカフェに立ち寄ってリラックスするつもりで、顔を出していただけたらうれしいです。
片瀬ケイ■ジャーナリスト、翻訳者。東京の行政専門紙記者を経て1995年に渡米。カンザス大学よりジャーナリズム修士号取得。米国人の夫とテキサス州在住。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサーとして、「米国がんサバイバー通信」でがんや医療に関わる情報を発信中。共著書に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓―家族と多様性の各国事情』(ちくま新書)がある。「米国がんサバイバー通信」
https://news.yahoo.co.jp/byline/katasekei
2013年から続く乳がん・婦人科がん患者サポート団体のJapanese SHAREが、2023年4月1日より、ニューヨークを拠点とした非営利団体、FLAT・ふらっとに活動の場を移行。乳がん・婦人科がんのほか全てのがん患者、高齢者、スペシャルニーズのある子どもの保護者を対象とし、在米日本人コミュニティーを健康と医療の面から支える。