女性の命を守るヘルスケア Vol.26
アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。
第26回 フェムテックの活用で女性特有の悩みを解消
こんにちは、今回は産婦人科医で思春期相談士の玉田さおりが担当します。皆さんは「フェムテック(FemTech)」という言葉を聞いたことがありますか? Female (女性)とTechnology (テクノロジー)を融合させた造語で、生物学的女性の健康課題をテクノロジーで解決するヘルスケアの概念として、2012年から使われています。
もともと、月経管理アプリの創業者が、多くの女性が抱える「月経による身体の変化の悩み」をテクノロジーで解決しようと考えたことから始まり、数年前から欧米を中心にフェムテック製品の市場が盛り上がり始めました。日本では2020年がフェムテック元年と言われているようです。
これまで、女性の性については社会的にも文化的にもタブー視されがちで、月経について隠す風潮があり、月経による体調不良は我慢しなければと思い込む方も多かったようです。近年、フェムテックが注視されるようになった背景としては以下が考えられます。
•Me too 運動が広がり、女性が声を上げやすい環境が整った。
•テクノロジーが進化し、生活向上のための知識も増え、多くの人が製品やサービスを取り入れやすくなった。
•月経による体調不良、妊娠・出産、不妊治療など、女性特有のライフ・イベントにより社会参加がかなわない期間の経済的損失の大きさが可視化された。
女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックの製品やサービスは、主に6つのカテゴリに分類されます。
フェムテックがサポートする分野
❶月経関連
月経管理アプリは、フェムテックの中でも多種類開発され、最も大きなシェアを維持しています。機能としては、月経周期とそれに伴う月経前症候群(PMS)の予測や過ごし方の提案、妊娠しやすい期間の予測、避妊時期の予測などがあります。中には、避妊期間の予測精度が90%を超える、FDA(米国食品医薬品局)承認のアプリも。また、月経カップや吸水ショーツなどの「フェムケア製品」もとても好評です。
❷妊娠、不妊関連
おりものを採取して排卵日をチェックできるものや、少量の血液を採取して検査機関に送ることで卵巣予備能(卵巣に残っている卵子数)の結果がわかるものなど、さまざまな検査キットが出ています。自宅で使える簡便な検査キットは、医療機関にアクセスしにくい方や婦人科受診に抵抗を覚える方にも利用しやすいというメリットがあります。また、自宅で子宮収縮をモニタリングするツールでは、胎児の状態や子宮収縮を客観的に評価でき、緊急受診を減らす効果も。これは、何度も切迫早産になったパートナーを持つ男性が開発したテクノロジーによるものです。
❸産後ケア
産後、仕事に復帰しても母乳育児を続けたい場合、搾乳するのに時間、場所共に女性の負担が多いことが大きな問題でした。最近は搾乳器がきちんと下着に隠れ、その母乳を冷凍し、必要な場所に配達するシステムなども開発されています。
❹更年期
多くの方が体調不良に陥る更年期についても、その特有の症状、膣ケア、性の悩みなどを相談できるサービスがあります。尿漏れを予防するためのトレーニング指導サービス、グッズの開発も行われています。
❺婦人科の病気
自己採取で健診ができるキットなどが開発されているところです。
❻セクシャル・ウェルネス
性にまつわることを、あらゆる面で健康な状態へと導くさまざまなグッズが、通信販売により入手できます。
テクノロジーやアイデアを医療機関と共有することで、十分なデータの蓄積、分析から客観的な評価もできるようになります。フェムテックを活用することで、多くの女性の健康課題におけるポジティブなフィードバックが期待されています。一方で、この便利なツールを的確に扱えるか、検査結果を正しく理解し具体的な治療や健康向上に役立てられるか、という心配もあります。法的規制などについても、今後の重要な課題になっていくでしょう。
臨床現場で残念に感じるのは、さまざまな不調を「仕方がない」と我慢してしまう方が多いことです。フェムテックの普及によって、自宅での検査や匿名で相談できるサービスなどを受けられるようになれば、あらゆるウェルネス向上のきっかけにつながります。同時に、身体のことをよく学び、女性の人生で起こることを理解し、自分を大事にする教育もまた、改めて必要になるかと思います。
玉田さおり■産婦人科専門医、思春期相談士。北里大学卒業、自治医科大学で初期研修、専門医取得。山王病院産婦人科、副部長として周産期医療、婦人科全般、思春期専門外来を担当。日本産婦人科学会、周産期新生児学会、思春期学会、日本周産期、女性心身医学会の会員。3人の子どもの母親でもある。現在、夫の仕事の都合でニュージャージー州に一家で暮らす。
SHARE 日本語プログラム
ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org
1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、米国医療事情を日本語で提供。