女性の命を守るヘルスケア Vol.15
アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。
第15回 遺伝子検査
最近は、がんと診断された方のほとんどが、MRIやレントゲンの検査をするように、遺伝子検査も受けるようになりました。
私が乳がんと診断された20年前は、遺伝子検査費をカバーする健康保険に加入している、がん家系の患者だけが対象でした。そして、保険がカバーしない場合の検査費用は3,400ドルだと言われたのを覚えています。当時、患者だった私は、遺伝子検査を受けるメリットが何なのかはよくわかっていなかったものの、とにかく自分の娘もかかる可能性の高い病気なのかどうかを知りたいという気持ちを優先し、この検査を受けました。
その頃はまだ、医療従事者にとっても開拓途中の分野だったようで、がんになりやすい遺伝子を次世代が受け継ぐか否か、というくらいの説明しか患者にできない状況でした。しかし今では、遺伝により、がんに罹患する可能性の高い方への予防策として治療方法が提示されています。
2013年に女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、BRCAという遺伝子の変異を理由に、予防策として両乳腺を切除する手術を受けたというニュースは、私たちに遺伝子と病気のつながりを身近に感じさせてくれました。また、この遺伝子の変異が乳がんと卵巣がんを引き起こしやすいと広く知れわたったことで、患者にとっても受けたい検査のひとつになっています。
当時のアメリカでは、たった1カ所のラボで遺伝子検査を請け負っていたそうです。現在はどこでもできるうえ、がん家系の方やがんと診断された方のほとんどに保険が適用されます。日本でも最近になって、乳がんまたは卵巣がんと診断された方に保険が適用されるようになりましたが、それまでは希望者だけが高額な費用を自己負担して遺伝子検査を受けていました。
アメリカではこの遺伝子検査の結果によって、手術の範囲や、術後の治療方針内容まで変わってくるため、治療前に検査を受けます。また、遺伝子をターゲットとした分子標的薬の研究も進んでおり、乳がん、卵巣がん、甲状腺がん、肺がん、直腸がん、皮膚がんなどの新薬が開発され、すでにFDA(米食品医薬品局)の承認を受けているものもいくつかあります。
前述のアンジェリーナ・ジョリーさんの報道が出た頃、ある乳腺専門医が「乳がんの治療法が、昔から変わることなく乳房を切除する方法しかないのなら、医学が進歩したとは言えない」と発言したのを覚えています。現在は研究が進み、BRCAの遺伝子変異を持つとわかった若い人たちに、切除以外の選択肢が与えられるようになってきています。乳がんの遺伝子検査の場合、100以上の遺伝子をテストします。自分が遺伝子変異を持っているか否かを知っておくことで、がんを防ぐための方針を医師と相談できる体制が整いつつあります。
これらの研究は、いろいろな製薬会社や研究機関で盛んに進められています。1971年に当時のリチャード・ニクソン大統領が「がん対策法(The National Cancer Act of 1971)」に署名し、「がんとの戦争(War on Cancer)」と称して、がんセンターの設立、研究者や医療従事者の育成を開始してから、ちょうど50年が経ちました。新型コロナワクチンの開発が猛スピードで行われ、大きな成果を生み出した今、そうした経緯が、がんのワクチンを作るうえでの大きな一助になると期待されています。
遺伝子研究を多くの製薬会社や医療機関が行っていたことが、がんのワクチン開発に結び付いていく、という内容のウェビナーなども見かけます。これからは、生後すぐに遺伝子検査を受けるのが当たり前になる時代が来るのかもしれませんね。
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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。