女性の命を守るヘルスケア Vol.18
アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。
第18回 乳がんの発症リスク
今回はJapanese SHAREで臨床アドバイザーを務める乳腺科医の田原梨絵が担当し、乳がんの発症リスクについてお伝えしていきます。
日本人女性のがんで最も多いのが乳がんです。国立がん研究センターによる最新の統計では「9人に1人」が罹患し、また発症は2018年までの15年間で年間4万人から9万人に急増しています。以前は欧米人に多く、日本人には少ないと言われていた乳がんですが、現在の割合としては欧米人と変わらず、食生活の欧米化やライフスタイルの変化などが影響しているのではないかと考えられています。
乳がん発症のリスク要因はさまざまですが、日本乳癌学会編集による『患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版』を参考に、4つに分けて説明します(以下、高 =乳がん発症リスクが高まる可能性がある)。
①食生活・生活習慣・持病
肥満 高
生活習慣病の原因にも。太り過ぎないように気を付けることはとても大切です。
アルコール 高
飲む量が増えるほど発症リスクも高まります。
喫煙 高
受動喫煙(他人が吸うたばこの煙を吸うこと)も発症リスクを高める可能性があります。
健康食品やサプリメント
乳がんの予防を目的として摂取することはおすすめしません。
ストレスや性格
ストレスについては結論が出ていませんが、個人の性格に関連性はありません。
糖尿病 高
糖尿病の人は発症リスクが高くなります。
②ホルモン補充療法や経口避妊薬(ピル)
更年期障害の治療向けホルモン補充療法 高
中でもエストロゲンとプロゲスチンを併用するホルモン補充療法では、わずかながら確実に発症リスクが高まります。
経口避妊薬(ピル) 高
わずかながら発症リスクが高くなる場合も。
※ホルモン補充療法とピルについては、利益とのバランスを考えて使用するかどうかを判断することになります。
③妊娠・出産と授乳および月経歴
妊娠・出産の経験なし 高
初産年齢が高い人も発症リスクが高まります。
授乳の経験なし 高
授乳の期間が長いほど発症リスクが低くなることもわかっています。
月経歴が長い 高
初経が早いほど、閉経が遅いほど、発症リスクがほぼ確実に高まります。
④遺伝
身内に乳がん患者がいる 高
乳がんの5〜10%は遺伝性と言われますが、それを判断するには専門的な評価と検査が必要です。身内に乳がん患者がいる場合は、血縁関係が近いほど、患者数が多いほど発症リスクは高くなります。また、家族に乳がん経験者がいなくても、遺伝性乳がんの可能性はあります。
以下、発症リスクを低くする可能性があると言われているものを紹介します。
大豆食品やイソフラボン:大豆食品を摂取することで発症リスクが低くなることが最近の研究でわかってきました。しかし、サプリメントでイソフラボンを摂取した場合の効果や安全性は証明されていませんので、サプリメントは避け、大豆食品からの摂取を心がけましょう。
乳製品:発症リスクを下げる可能性はあります。ただし、牛乳そのものと発症リスクの関係についてはよくわかっていません。どのような乳製品をどの程度摂取すれば発症リスクが低下するかは不明です。
運動:閉経後の女性では、定期的な運動によって発症リスクが低くなります。
発症リスクというのは、あくまでも「かかりやすさ」であり、該当していてもかからない人もいれば、発症リスクが低くてもかかる人はいます。なるべく発症リスクを抑えるために、バランスの良い健康的な食生活と運動を心がけること、生活習慣に「ブレスト・アウェアネス」を取り入れ、乳房を意識して生活すること、40歳からは定期的に検診を受けることが大切です。
ブレスト・アウェアネスについては、本コラムの第8回で詳しく書きましたが、下記のYouTubeチャンネルの動画でもわかりやすく解説しています。ぜひ生活に取り入れてみてくださいね。
●乳がん大事典【BC Tube編集部】
【5分で分かる】ブレスト・アウェアネス〜自分の乳房を意識しながら暮らす〜
田原梨絵■Japanese SHARE臨床アドバイザー、一般社団法人BC Tube理事を務める、ボストン在住の乳腺科医、MD。ダナファーバーがん研究所研究助手、MDアンダーソンがんセンターのリサーチ・インターンを経験。
SHARE 日本語プログラム
ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org
1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。
参考資料
国立がん研究センター がん統計2018年版
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html
第8回 ブレスト・アウェアネス
https://soysource.net/beauty-health/womens-health-care/breast-awareness/