女性の命を守るヘルスケア Vol.20
アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。
第20回 月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)
ソイソース読者の皆さま、初めまして。ニュージャージー在住の産婦人科医、玉田さおりです。
私は医師、そして思春期相談士ですが、思春期の娘がいる更年期世代の母親でもあり、今まさに「女性の人生における大きなホルモンの嵐」に、母娘で振り回されているところです。そんな私から、女性ホルモンに関係した女性特有の疾患を中心に、皆さまが少しでもホッとできるような情報をお伝えしていきたいと思っています。今回はホルモンと月経に関連した2つの疾患について説明します。
●月経前症候群(PMS/Premenstrual syndrome)
まずは、ご存じの方も多いと思いますがPMSについてです。
月経のある女性の8割程度が経験する、月経前の3〜10日に起こる心身の全般的不調を指します。原因は、月経によるホルモンの変動と関連すると言われています。情緒不安定になり、ささいなことで悲しくなったり、胸の張りや痛みを感じたり、頭痛に肩こり、体重増加、肌荒れ、ニキビ……と症状を挙げればキリがありません。
症状の期間や重さには個人差が見られますが、月経が始まり、女性ホルモンと自律神経のバランスが元に戻ると調子が良くなります。
特別な検査があるわけではないものの、症状が出る期間や月経周期との関連性に基づき、PMSと診断されます。月経が始まると症状が軽快することが、大きな特徴と言えます。月経が始まっても症状が改善されない方は、ほかの内科の病気、たとえば甲状腺疾患、肝臓の病気、糖尿病などがないか、かかりつけ医に確認してもらってください。
また、PMSは「気付きの病」とも言われます。「これはPMSかな」と自覚するだけでも、症状が緩和されることがあります。なぜなら、原因不明の不調に対しては、必要以上に不安を感じてしまう方が多いからです。自分の月経周期を把握して、「そろそろ調子が悪いかも」、「少し落ち込んじゃうからリラックスしよう」などと意識すると、情緒不安定になるのをいくらか予防できます。周りの親しい人には「今はPMSで調子が悪い」と理解してもらうことも大事です。
症状が深刻な方は、低用量ピルを服用して排卵を止め、ホルモンの変動を抑えることも検討しましょう。皮膚科からの治療薬が効かない月経前の肌荒れや、月経前にだけできるニキビの予防にも有効です。ピルはもともと避妊方法のひとつでもあるので、いくつかのメリットがある場合はぜひ試してみてください。
症状は人によってさまざま。症状に合った治療方法をかかりつけ医とご相談ください。たとえば、むくみには身体の水分を外に出す漢方薬を使用することがあり、気持ちが落ち込む方には必要に応じて抗不安薬などを頓用する治療を行います。
●月経前不快気分障害(PMDD/Premenstrual dysphoric disorder)
一般的なPMSの治療薬でも軽快しない時は、PMDDが考えられます。
月経前に、気持ちの落ち込みやイライラが激しくなるほか、不安、緊張が高まり、攻撃的な気持ちになるなどの精神的な症状と、食行動の変化、睡眠障害などが現れます。
月経のある女性の約1.8〜5.8%にPMDDの症状が見られ、これは重症PMSの患者と同じくらいの数に相当します。
精神的に不安定な状態になっても月経が来ると治っていくので、後に「どうしてあんなに怒っていたのだろう」などと、後悔や自責の念から自己嫌悪に陥ってしまうこともあります。
PMDDのメカニズムははっきりとわかっていませんが、月経周期に関連するため、女性ホルモン、特に排卵後に増える黄体ホルモンや、それによって調節を受けるセロトニンの低下が関係しているとも言われています。セロトニンは幸せホルモンとも呼ばれ、心の安定に必要な脳内のホルモンです。
治療法ですが、ホルモン治療が効かないことが多いので、精神療法のほか、うつ病などの不安障害で使われているSSRI(Selective serotonin reuptake inhibitor/選択的セロトニン再取り込み阻害剤)を併用し、セロトニン値を上げてメンタルの改善を目指します。
重症化すると、うつ状態が悪化し、社会生活や家族関係に大きな支障が出てしまうことも。決して軽く考えず、症状に心当たりのある方は専門医やメンタルクリニックなどに相談してください。
玉田さおり■産婦人科専門医、思春期相談士。北里大学卒業、自治医科大学で初期研修、専門医取得。山王病院産婦人科、副部長として周産期医療、婦人科全般、思春期専門外来を担当。日本産婦人科学会、周産期新生児学会、思春期学会、日本周産期、女性心身医学会の会員。3人の子どもの母親でもある。現在、夫の仕事の都合でニュージャージー州に一家で暮らす。
SHARE 日本語プログラム
ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org
1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。