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危機管理コンサルタント「謝罪マスター」竹中功さん

危機管理コンサルタント「謝罪マスター」
竹中功さん

60年代UKロックが好きだという竹中さんはローリングストーンズの公演に合わせて今回シアトル入り旅のタイトルは卒業旅行さよならローリングストーンズだそう

大荒れとなった2019年の日本の芸能界。吉本興業の闇営業疑惑やタレントの薬物使用などが世間を騒がせ、謝罪会見に注目が集まりました。かつて吉本興業で所属芸人の不祥事に対応してきた「謝罪マスター」竹中 功さんは、あの吉本騒動をどう見ていたのでしょうか? 謝り方の秘訣と併せて聞きました。

(取材・文:加藤 瞳)

「誰が誰に何を」謝るかが肝心

(宮迫博之さんと田村 亮さんの)謝罪会見でまず大事だったのは、被害者にお詫びすることだったんです。それがズレてしまっていた。宮迫と亮ちゃんが詐欺被害者やそのご家族の方に対して「申し訳ありませんでした」と、本当はそれだけで良かった。ところが、なんで会社に黙って会見を開いたかを説明していくうちに「謝りたかったのに謝らしてくれへんかった」とか「パワハラがあった」とか、会社批判みたいになっていった。謝罪に言い訳は不要。迷惑をかけた人にお詫びをする、そして2度とこういうことがないようにどうやって再発防止をするか説明する、それが謝罪会見なんです。たとえば、今回はマネジャーを通さずに行った仕事で問題を起こしたのだから、「今後は必ず会社を通してマネジャーに相談してから行きます」とか「会社の命令に従って仕事に当たります」とか提示する。それなのに、説明し過ぎになっていたのが、あの会見でしたね。もちろん気持ちもよくわかります。「記者会見したらあかん」っていうのを振り切って、手作りでやって……。でも、目的は「謝罪」であり、吉本への文句じゃなかった。にもかかわらず、それ以外のことが多過ぎて結果的に謝罪の印象が残らなかった。そういう意味で、僕はやっぱりダメだったと思います。

(吉本興業ホールディングス株式会社の岡本昭彦代表取締役)社長の会見は記者にいいようにしてやられたって感じでしたよね。「給料が吉本9:タレント1というのは本当ですか?」とか「契約書もなく口約束だけでやれると思っているんですか?」とか。実際にあの場では給料の話なんて関係ないですよね、謝罪に。でも記者は「お金がないからそんな仕事行くんですよ」っていうロジックを持ってくる。本当は「本来の会見の目的と(質問の内容が)違うので今は答えません」で良かった。謝罪相手に、何をどこまで謝罪するかを明確にすることが大事。「誰が誰に何を」謝るかが見えてなかったら謝罪にならないんですよ。岡本社長が被害者にお詫びできたのか?できていないですよね。宮迫が迷惑かけたことをほんまに心から詫びてんのか? 違うことを99くらいしゃべったらそれは見えなくなる。基本の基本ができていなかったんです。

危機にまみれて知恵が付いた

吉本には1981年に入社しました。まず広報部を作らされたんです。それまでメディアの窓口になる部署はなかった。そこでマスコミ対応をするうちに、何か起きると話の聞き取りを僕らが全部するようになって、事件が起きたら「竹中、謝っといて」ってことに……。結果、30年以上、謝る仕事をしていたんですよ(笑)。たとえば、吉本の所属芸人がサイドビジネスで展開する焼肉屋で食中毒が発生した時、事件の対応をしながら、店をどうするか、お客さんや(吉本の)ファンをどうケアするか、記者会見はどうするのか、僕がシナリオを書いていたわけです。ほかにも、ベテラン漫才師が飲食店の店長を殴ってつかまりましたが、これをどうやって社会に戻そうかと計画する、そういう仕事でした。

これだけ失敗例の多い会社も珍しい(笑)。失敗から学ぶわけです。事件があるたびにマスコミにさらされて、「こんな風に記事が作られていくねんな」とか、「こう回答したらこんな風潮に流れが変わったな」とか、危機にまみれたんで知恵が付いたんですよ。

印象的だったのは、横山やすしさんの契約解除。「時代が変わるな」と感じました。当時、久米 宏さんと「TVスクランブル」という番組をやっていたのですが、横山さんは酔っ払ったまま出てきて久米さんに怒られて、なんてのをしょっちゅうやってた。あの頃は、「酔っ払い、テレビ出すな!」と言われながらも、お客さんは喜んでいました。それが、最後のお酒の失敗で、舞台もテレビも出られなくなった時に、「お酒ちょっと飲んでもテレビに出られた時代」から「ちょっと飲んだらもう出られない時代」に変わったんですよね。僕はまだ下っ端でしたけれど、対応した役員は横山さんと二人三脚でやってきたような人だったので、悲しみをこらえる表情で会見していました。大切な財産がゼロになる悔しさ。その感情は忘れられない。

今はお客さんがひとりでも不快に思ったら、もうやめようっていう時代。でも、(その変化も)乗り越えながら新しい笑いを作っていけばいい。「コンプライアンスが厳しいから何もでけへん」って言ってたら売れなくなるだけ。吉本の創業は明治45年です。メディアが舞台しかなかった。そこから、ラジオ、テレビっていう時代の変化に笑いの形は対応してきたわけです。今は「ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)」って言われるくらいハラスメントだらけの世の中で、窮屈かもしれない。それでも、面白く変わり続ける。それができているのが、ダウンタウンやさんまさんなんでしょうね。変化せなあかんのは、明治時代から変わらない。

ナインティナインの岡村隆史さんと香港映画無問題1999年無問題22001年を製作したほど大のカンフー好きシアトルではボランティアパーク隣にある墓園でブルースリーの墓参りも果たした

土下座謝罪はパフォーマンス?

(大麻所持の罪で起訴された、アイドルグループの元メンバーが、今年6月の保釈時に報道陣の前で土下座したことについて)殺人や強盗なら明らかに被害者がいるけれど、薬はあくまで自分の罪ですから、誰にも迷惑をかけていないという捉え方もあるかもしれない。でも法律を破ったんですから、彼と一緒に仕事してきた人にとっては、それまでのクリエイティブな仕事が全部パーになるわけです。それで言うと(謝罪の目的は)関係者へのお詫びと、裏切ったお客さんに「ごめんなさい」ですよね。(土下座はパフォーマンスだという批判もあるが)大切なのは、その謝罪を誰が受け取るかなんです。ひょっとしたら10年前から彼を好きだったファンには、それで良かったんじゃないかと 。謝罪を伝えたい相手に伝わっていれば、あれはあれで良いと僕は思います。大体、テレビに映ると、普段ファンでもない人が「こんなの謝罪じゃない」って言うんですよ。人の土下座をなんで他人が評価するんですか。彼の名前も知らんような人が、芸能人の土下座を見て「うっとうしい!」とか、「押し付けがましいわぁ、練習したんちゃうか?」なんて言うのはお門違い。「アンタ謝ってる相手ちゃうやん!」ってことですよね。なんでみんな評論家になるんですか。もし、あなたが長年のファンで、「次のコンサートも行こうと思ってたのに、行けなくなった! うぅ、残念!」っていう人やったら、「こんな土下座じゃ許せへん!」って言っても良いと思いますよ。でもこの頃、謝られる側ではない人が怒ってる、みたいなことが多い気がします。

ただ、(今年4月に暴行の疑いで逮捕され、後に不起訴処分となった音楽グループのリーダーが)謝罪会見のために金髪を黒く染め直していたのは、僕も「黒く染めてる暇があったら丸坊主にせい!」って吠えましたけどね。というのは、ちょっと古い感覚かもしれないですが、男の子で髪を伸ばしている子が、急にバリカンを当てたりすると、気持ちが律するというか、反省の気持ちになるんですよ。

事件が起こってから謝ってもダメ

そもそも「何かをやった」のが問題。「薬やってつかまりました」→「薬やったからあかんねん」、「不倫やってバレました」→「不倫するからあかんねん」ってことなんです。村本(ウーマンラッシュアワー村本大輔さん)が、酒飲んでよくSNSでケンカをしていたんです。それで炎上する。だから「交通違反と一緒で、飲むなら書くな、書くなら飲むな」って僕は教えたんですよ。

リスクマネジメントというのは、 とにかく想定すること。防災訓練と一緒です。 悪いことを考えるのは嫌ですが、練習も必要。たとえば、会社で起こり得るリスクを、ひとりひと束ずつ付せんを渡して、思い付く限り挙げてもらう。経理部長が金を持って逃げる、社員が痴漢で逮捕される、社長が飲酒運転でつかまる、いろいろ出てきますよ。先日、福島県でこれをやったら、「クマが出る」、「磐梯山が噴火する」って。「そんなん大阪や東京ではなかったわ」なんて笑いましたけれどね。これがリスク共有という名の可視化なんです。

竹中さんの著書謝罪力仕事でも家庭でも問題解決に役立つ本日経BPは紀伊国屋書店でも店頭オンラインでオーダー可能

コンサルタントに考えてもらって、教えてもらっても「ふんふんなるほど」で終わるけれど、みんなに出してもらったら 「そんなこと考えもしなかった!」と気付きがある。「コーヒーこぼしてパソコン壊れる」となったら、「オフィスにコーヒー持ち込んだらあかん」ってルールを作れば良いわけでしょう? 「朝、急に雪が降ってタイヤ交換に時間がかかる」など、リスクは大小さまざま。介護施設だと、「おばあちゃんの名前を間違えて、違う薬を飲ませてしまう」なんて大ごとですよ。そしたら、「なんでそんなことが起こりそうなんやろ?」と考えて、対策を考える。家庭内でも同じ。不倫かもしれないし、おばあちゃんが痴呆で行方不明になるかもしれない。子どもが誘拐される、家に泥棒が入る、へそくりがバレる、でもいい(笑)。家族でゲーム的にやってみて欲しい。「ダンナの実家遠いけれど、おじいちゃんに1日連絡つけへんかったらどうする?」だったら、「3日連絡がつかなかったら、近所の酒屋のおっちゃんに様子を見に行ってもらう」と対策を決めておける。ほかにも、子どもが同級生にケガをさせてしまった場合は、誰が誰に謝りに行くか、謝る前に何をすべきか、先生とどんな話をするのか。家族で相談したり、学年の保護者が集まって話し合ったりしないといけないかもしれない。学校が危機管理の方法を考える必要があるもしれない。交通事故を起こしたら、デートのキャンセルより先に110番でしょう? 同じように、何か起こった時、最初に何をしたらいいか、ベストと思われる行動を考えておくことです。どう対応すべきかわからないことも、みんなで考える。想定する能力がとても大事なんです。

竹中 功
同志社大学大学院修士課程修了。吉本興業に入社後、宣伝広報室を設立し、月刊誌『マンスリーよしもと』初代編集長を務めたほか、吉本総合芸能学院(よしもとNSC)の開校や、なんばグランド花月、心斎橋筋2丁目劇場などの開場に携わる。コンプライアンス・リスク管理委員、よしもとクリエイティブ・エージェンシー専務取締役などを経て2015年退社。現在は危機管理などのコンサルティングや刑務所の改善指導など多岐にわたって活動する。3月に著書『謝罪力/仕事でも家庭でも「問題解決」に役立つ本』(日経BP)が発売された。
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨーク市立大学シネマ&メディア・スタディーズ修士。2011年、元バリスタの経歴が縁でシアトルへ。北米報知社編集部員を経て、現在はフリーランスライターとして活動中。シアトルからフェリー圏内に在住。特技は編み物と社交ダンス。服と写真、コーヒー、本が好き。