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アジア系が標的に?アメリカでヘイトクライムが増加

シアトルは全米でもアジア系人口の多い都市であり、リベラルな土地とのイメージを持たれています。しかし、今年2月にインターナショナル・ディストリクトで日本人女性が襲われるという事件があり、日本人コミュニティーに動揺が広がっています。日米文化の違いに詳しく、ダイバーシティー研修を企業や学校などに提供している森山陽子さんに、ヘイトクライムについて解説してもらいます。

文:森山陽子(Wise Leadership, LLC www.wise-leadership.com

※本記事はJIA ファウンデーション/はあとのWAのニュースレター2021年3月13日配信分を一部抜粋したものです。

リーダーシップコーチ・講師で、JIA ファウンデーション/はあとのWA役員でもある森山陽子さん。職場や地域での影響力・リーダーシップを発揮するサポートを提供している

アジア系に対するヘイトクライムが増えているのはなぜか

ヘイトクライムとは、特定の人種や肌の色、宗教、民族・国籍、性別、年齢、障害、性的指向のアイデンティーについての偏見(バイアス)、否定的な感情に基づく嫌がらせや誹謗中傷、脅迫、暴行などの犯罪を指します。ヘイトクライムと認められるには、身体的暴行や脅迫などの犯罪があり、その犯罪での被害者に対する加害者の意図(偏見から来る動機)の確認・立証がされなければなりません。そのため、加害者が捕まっていない、または被害状況から上記のことが確認できない場合、単なる暴行事件として処理されてしまうケースもあります。被害者が英語を十分に話せないなどの理由で、警察に報告されないケースも少なくありません。実際の数字は公に報告されているものよりもずっと多いと言われています。

シアトルのチャイナタウンでも3月にデモが行われた wkndstudio

FBIによると、2019年は7,314件のヘイトクライムの報告がありました。そして、憎悪・過激主義研究センターの報告では、2020年、アメリカの16都市で発生したアジア系に対するヘイトクライムは122件あり、前年比149%増となっています(なんと、ニューヨーク市は前年比833%増でした)。さらに、非営利団体である「ストップ AAPI ヘイト」によれば、2020年の3月から12月までに発生したアジア系に対するヘイトクライムは2,808件あり、そのうち43.8%がカリフォルニア州、13%がニューヨーク州、4.1%がワシントン州で発生しています。

新型コロナウイルスの出現で、多くの人がパンデミックによる経済的なダメージやストレスを受けている状況が1年以上続いています。感染の第一報が中国からだったことにより、このパンデミックに伴う被害は全て中国のせいであり、すなわち中国人が悪いという偏見が広がりました。キング郡副検事、レアンドラ・クラフト氏も発言しているように、そのストレスやフラストレーションのはけ口として(中国人かどうか判断できないので)アジア系がターゲットにされていると言われています。

ヘイトクライムへの対応

ヘイトクライムを避けるには、まず自分の安全を確保することです。危険な状況からは逃げてください。突然襲われて対処できず、被害に遭ってしまった場合は警察に911通報し、ヘイトクライムの旨を伝え、加害者の特徴や言動、時間、場所など詳細な状況を伝えます。通訳をお願いすることも可能です。同時に、ストップ AAPI ヘイトのウェブサイト(https://stopaapihate.org)でも報告をしましょう。日本語でも、また第三者からでも報告ができます。集められた情報はヘイトクライムに関する教育用資料の作成や、ヘイトクライムの収束を働きかける政策のために使われます。

もし、あなたが目撃者だった場合、自らの身を守りつつも、警察に通報する、写真や動画を撮って記録をするなど、行動を起こすことは大変意味があります。前述の通り、ヘイトクライムの立証には確たる証拠が必要ですので、人々の協力・対応が望まれます。

ヘイトクライムは、被害者が自分の存在、要素を否定された結果に起こる事件であることから、被害者の心理的苦痛が大きいと言われます。被害者の方には「あなたは何も悪くない。私はあなたの見方だ」と、寄り添うことが大切です。

ヘイトクライムを防ぐために

どうすればヘイトクライムを防止できるのでしょうか? 人種差別に対する理解の欠如がヘイトクライムにつながっていると考えられるため、知識を共有することが先決です。以下は企業や学校のヘイトクライムに関するポリシーに記されている例です。

  • 各文化や違いを尊重する。
  • 特定の人種や肌の色、宗教、民族・国籍、性別、年齢、障害、性的指向に関する内容のジョークを言わない。
  • 差別やハラスメントに値する言動を慎み、それを容認することもしない。
  • ハラスメントや差別、ダイバーシティー(多様化)に関するトレーニングを受ける。
  • 不適切な言動を見つけたら、速やかに報告する。

これらは、主に自分が加害者にならないためのリストと言えます。では、自分が被害者にならないためには何ができるでしょうか? 差別についての知識を身に付け、それを周囲の人にも伝えていくことが大事です。映画などで取り上げられるアジア人のイメージを払拭するために、自分を例にリアルなアジア人像を知ってもらうのです。こうした行動が、ヘイトクライムのない社会を作る第一歩になるはずです。

私たちが、そして全ての人が暮らしやすいアメリカを築いていくために、自分ができることをまず1つ試してみてください。

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