日米の医療制度の歴史的背景から複雑な保険と医療費のカラクリ、さらにワシントン州で日本語対応の医師や専門医を探し、受診するまでの具体的なステップを徹底解説します。
記事監修:ワシントン大学医学部麻酔科教授 南立宏一郎氏
なぜ違う?
日米医療保険制度の歴史とコストの圧倒的格差
日本とアメリカの医療制度は、その成り立ちから大きく異なる道を歩んできた。
日本の「国民皆保険制度」とフリーアクセス:
日本の医療保険制度は1922年に制定された健康保険法を起点とし、1961年に居住者全員が加入する国民皆保険を実現。全国一律の公定価格である診療報酬で運用され、原則として紹介状なしでも医療機関を自由に受診できる「フリーアクセス」が最大の特徴である。ただし、大病院では紹介状なしの受診に追加費用がかかる場合がある。
アメリカの「多層的・断片的な制度」:
アメリカでは第二次大戦期以降に雇用主提供保険が拡大し、1965年に高齢者向けのメディケア(Medicare)と低所得者などを対象とするメディケイド(Medicaid)が創設された。2010年のオバマケア(ACA:Affordable Care Act)では無保険者の削減を目指したが、2019年以降、連邦レベルでは個人加入義務違反の罰金が0ドルとなった。現在も、雇用主提供保険、公的保険、個人加入保険が併存する多層的な構造が続いており、2024年には全人口の8.2%、約2,720万人が無保険だった。
この構造の違いは、医療費にも大きな差を生んでいる。経済協力開発機構(OECD)の2024年推計によると、アメリカの1人当たりの年間医療支出は1万4,885ドル、国内総生産(GDP)比17.2%に達している。一方、日本は5,790ドル、同10.6%にとどまっている。
あなたの保険はどっち?
HMOプランとPPOプランで変わる受診ルール
アメリカの医療で最初につまずきやすいのが「プラン種別」だ。日本では医療アクセスの自由度が高く、紹介状がなくても患者自身が診療科を選び受診できる。一方、アメリカでは加入している保険プランがHMO(Health Maintenance Organization)プランかPPO(Preferred Provider Organization)プランかによって、専門医にかかるためのルールが大きく異なる。保険証(IDカード)の表面を見て、自分がどのタイプか確認しておきたい。
HMOプラン
保険料や自己負担額が比較的抑えられている反面、受診の自由度は制限される。専門医に直接予約を入れるのではなく、まず主治医を受診し、紹介状を出してもらうのが基本の流れ。
•主治医(PCP:Primary Care Provider)の登録:原則として必須
•専門医へのかかり方:主治医の紹介状(Referral)が必要
•ネットワーク: 原則としてネットワーク内(In-network)の医療機関のみ利用可。緊急時や救急受診(ER)は例外となる場合がある
PPOプラン
保険料や受診時の支払いが高めに設定されている分、自由度が高い。
•主治医の登録: 義務付けられていない
•専門医へのかかり方: 紹介状なしで直接予約可
•ネットワーク:ネットワーク内の利用が最も安い。ネットワーク外の医療機関も利用できるが、自己負担額は高くなる
EPOプラン
近年、ワシントン州でも増えているのがEPO(Exclusive Provider Organization)プラン。紹介状なしで専門医に直接かかれるPPOプランに近い自由度を持ちながら、HMOプランのようにネットワーク外の受診は緊急時を除いてカバーされないことが多い。両方の特徴を併せ持つハイブリッド型だ。
実践シミュレーション
「ひどい手荒れで、日本語が通じる皮膚科に行きたい!」
たとえば、ワシントン州で日本語が通じる皮膚科医を見つけたとしても、すぐに予約できるとは限らない。加入している保険によって、次に取るべきアクションは変わってくる。
▶ 保険が「HMOプラン」の場合
皮膚科に直接電話はせず、まずは自分の主治医の予約を取り、受診する。「〇〇クリニックの日本語対応の先生に診てもらいたいので、紹介状を出してほしい」と依頼する。ただし、その皮膚科がネットワーク内である必要がある。紹介状が発行されて初めて、皮膚科に予約を入れることができる。
▶ 保険が「PPOプラン」の場合
主治医を通さず、直接皮膚科に連絡をする。予約時に「私の保険は〇〇のPPOプランですが、ネットワーク内ですか? 新規患者を受け入れていますか?」と確認し、予約をする。
請求書を見てパニックにならない!
保険とお金の「基礎用語」
日本では年齢や所得に応じて窓口負担が変わるが、アメリカでは加入している保険プランによって自己負担額が決まる。まずは手元の保険証(IDカード)を確認しながら、以下の基礎用語を押さえておきたい。
Deductible(ディダクティブル:免責額)
保険が適用され始める前に、年間で自分が支払わなければならない金額。プランによって金額は異なる。
Copay/Coinsurance(窓口負担額・定率負担額)
受診時や医療サービスを受けた際に支払う自己負担額。受診ごとに一定額を支払うCopayと、医療費の一定割合を負担するCoinsuranceがあり、適用条件はプランによって異なる。
MOOP(Out-of-Pocket Maximum:自己負担上限額)
年間の自己負担額の上限。この額に達すると、対象となる医療費について保険が一定の範囲でカバーする。ただし、免責額や自己負担上限額の扱いはプランによって異なる。特にネットワーク外(Out-of-network)を受診すると、上限が適用されなかったり、自己負担額が大きく跳ね上がったりする場合がある。
PPOプランでも油断禁物! 2つの落とし穴
紹介状なしで専門医に直接予約できることが多いPPOプランでも、事前に確認しておくべき点がある。
落とし穴① クリニック独自の受け入れルール:
人気の専門医は、PPOプランであっても主治医からの紹介状がない新規患者は受け付けないという独自ルールを設けていることがある。
落とし穴② 事前承認(Prior Authorization)の壁:
専門医の診療後、高額な検査(MRIなど)や特殊な薬が必要になった場合、保険会社の「事前承認」が必要になることがある。この手続きは、日頃から健康状態を把握している主治医がいる方が格段にスムーズに進みやすい。
プランに関わらず、健康なうちからネットワーク内の主治医を見つけ、一度受診して良好な関係を築いておくこと。これがアメリカ医療を安心して利用するための防衛策になる。
日本語対応の専門医が限られる背景とは
「シアトルには日本人が多いのだから、日本語が通じる専門医もすぐに見つかるはず」。そう思って検索しても、思うように見つからず焦った経験はないだろうか。
日本などアメリカ以外の医学部を卒業し、その国の医師免許を取得した医師(International Medical Graduates、以下IMG)がアメリカで臨床医として勤務するには、ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)の認証取得(試験合格など)が基本的には必要となる。ECFMG認証を取得しても、研修プログラムには国務省指定のスポンサー等の制度要件や、その後の滞在・就労ビザ(H-1B等)の問題も絡むため、供給そのものが制約されている。
またアメリカの大学機関等で勤務するIMGに州政府が発給する限定医師免許もあるが、母国での十分な経験や業績が必要で、かなり例外かつ限定的である。ただし、発給後の医療行為等に制限はない。
「日本の病院のオンライン診療を受ければいいのでは」と思うかもしれないが、遠隔診療(テレメディシン)は「患者がいる国や州で免許が必要」というのが原則であり、保険の問題も生じる。
このように、ワシントン州政府発給の医師免許を持ち、自分の保険のネットワーク内に含まれており、さらに新規患者を受け入れている「流暢な日本語で診察をする専門医」を探すのは、至難の業なのだ。
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