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なぜ増える?自閉症やADHD~発達障害についての最新研究~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

なぜ増える?自閉症やADHD
~発達障害についての最新研究~

自閉症スペクトラム障害や注意欠如・多動性障害(ADHD)などの発達障害が世界的に急増しています。CDC(米疾病対策センター)によると、アメリカにおける自閉症の子どもの数は、2000年には150人に1人だったのが、2018年には44人に1人となり、20年弱で比率が3.4倍に増えました(1)。また、ADHDの子どもの数も、2003年の440万人から2016年には610万人に。13年間で1.4倍近く増加しています(2)。

こうした発達障害は生まれつき脳に機能障害を抱えていることが原因とされており、親のしつけや育て方とは関係がありません。現在のところ、正確な原因は特定されていないものの、複数の関連遺伝子によって発症する「多因子遺伝疾患」と捉えられています。遺伝子を受け継いでどのように発症するかは解明されておらず、親子や兄弟で自閉症の症状が見られる場合もそうでない場合もあります。

また、自閉症やADHDに関する認知度が上がり、これまでは障害ではなく個性だと思われていた特徴が障害だと認識されたケースや、診断基準が変わったために診断率が上がったという意見も。しかし、これらは発達障害が急増している要因の一部に過ぎません。

こうした遺伝的・社会的な要因に加えて、最近では妊娠中に母親が服用した薬や周産期のトラブル、化学物質への暴露などさまざまな環境要因が複雑に絡み合って脳機能の働きが阻害されるのではないかと考えられています。特に気を付けたいのが、妊娠中の薬の服用です。

抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウムは、胎児の大脳皮質にダメージを与え、知能低下や自閉症のリスクを高めることがわかっています(3)。また、抗うつ薬を妊娠中に服用した場合、赤ちゃんの自閉症のリスクが高まるという調査結果も出ています(4)。ただし、抗うつ薬が原因であるとは証明されていません。もともと社会生活を送るうえで生きづらさを感じやすい方が抗うつ薬を飲む比率が高く、そうした母親を持つ子どもも似たような遺伝的傾向を受け継いでいるという可能性も考えられます。

最近では、タイレノールなど市販の風邪薬や痛み止めに含まれる解熱鎮痛成分のアセトアミノフェンが自閉症とADHDのリスクを高めるという調査結果が発表され、多くの人に衝撃を与えました。2021年にヨーロッパで複数の調査を分析した結果によると、妊娠中にアセトアミノフェンを服用した場合、子どもの自閉症のリスクが19%高まり、ADHDのリスクも21%高まったとのことです(5)。

ほかにも、妊娠中のアルコール摂取、葉酸の不足または過剰摂取、抗生剤の服用、妊娠35週以前の早産が影響するとされます。さらに、除草剤として使われる農薬のグリホサートなど環境化学物質や、水銀、カドミウムといった重金属への暴露などが中枢神経系への機能障害を引き起こし、自閉症のリスクを高めると言われています(6)。

環境汚染は自分だけではどうしようもない問題ですし、「タイレノールですら安心して飲めないなんて……」と、やりきれない気持ちになってしまうかもしれません。やみくもに怖がったり無視したりするのではなく、まずはリスクを知ることが大切です。少なくとも、こうした知識が頭の片隅に入っているだけで、食品や薬に対する認識が変わるかもしれません。

自閉症やADHDの子どもに限らず、現代の新生児は生まれた時からすでに平均で約200種類の有害物質に汚染されていると言われています(7)。それらはテフロンや農薬、難燃剤、ファストフードのパッケージに使われる物質などで、ほとんどに発がん性があり、脳や神経にも有害です。

個人でできることはたくさんあります。たとえば、食品に用いるプラスチック容器はガラス容器に変える、ラップをかけたまま電子レンジで加熱しない、デトックス効果のある野菜を食卓に取り入れるなど。日々の習慣を見直し、次の世代に負の遺産を渡さないように心がけたいものですね。

子育てサポート・グループのお知らせ
「シアトル子育て広場」
第5回 7月7日(木)5:30pm~6:30pm

参加費無料

本コラム執筆者の長野弘子さんが主宰する、子育ての悩みやコツをオンラインでシェアし合う交流の場。申し込み・詳細はウェブサイト(www.lifefulcounseling.com/support-group.html)にて。

*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

(参考記事)

1https://www.cdc.gov/ncbddd/autism/data.html

2https://www.cdc.gov/ncbddd/adhd/data.html

(3)https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/1681408

(4)https://sciencebasedmedicine.org/antidepressants-and-autism/

(5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34046850/

(6)https://www.youtube.com/watch?v=QqkMwoOCZOg

http://www.qlifepro.com/news/20200513/asd-glyphosate.html

https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2020/20200512asd.pdf

(7)https://childlifenutrition.com/in-the-news/body-burden-the-pollution-in-newborns/

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com