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毒親 ~モラハラで育てられた子どもたち~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

毒親 ~モラハラで育てられた子どもたち~

Withコロナの生活も早1年、自粛生活で家にいる時間が増えたことで絆が深まった親子もいれば、その逆にイライラが募り一触即発になっている親子もいます。子どもへの怒りが止められず、毎日のように怒鳴ったり怖い顔をして子どもを叱っていたりするとしたら、それはしつけではなく、言葉や態度による精神的な暴力「モラルハラスメント(モラハラ)」かも。この機会に、自分がモラハラで子どもを支配する「毒親」になっていないかチェックしてみましょう。

「毒親(Toxic Parents)」とは「子どもの人生を支配して子どもに悪影響を及ぼす親」を示し、サイコセラピストであるスーザン・フォワード氏により1989年に提唱された概念です。子育てをする中で、誰もがついカッとなって子どもを怒鳴る場面はあるでしょう。けれども、それが毎日のように繰り返され、親の権威を振りかざして子どもを執拗に苦しめているようであれば、毒親の可能性が高いと言えます。

フォワード氏の著書『毒になる親 一生苦しむ子供』では、毒親のタイプを「過干渉」、「ネグレクト(育児放棄)」、「暴力や性的虐待」、「精神障害」の4つに分けていますが、この中でもいちばん多いのが「過干渉」タイプです。子どもに大きな期待をかけ、失敗を許さず、世間に自慢できるような「良い子」に育てようとします。ハードルの高い要求を突き付け、「ほら早くしなさい! あなたのせいで遅れちゃうわよ」、「また宿題の前にゲームして! 何度言ったらわかるの?」、「ほんとに自分勝手なやつだ。それでもお兄ちゃんなのか」、「こんなこともできないのか? 何をやってもダメだな」と人格を否定したり罪悪感を植え付けて子どもを思い通りに動かそうとしたりします。

こうした親の特徴として、劣等感が強く、自分と他人との境界線が曖昧で、世間体や「〜すべき思考」が強い人が挙げられます。そのため、子どもを自分の満たされない感情のはけ口として使ったり、他人と張り合うためや世間に自慢するための道具にしたりします。問題なのは、親は自分が毒親であることに気付かずに、自分の子育ては正しいと信じ込んでいることです。

毒親に育てられた子どもは、自分よりも親が大事だと洗脳され、親と同じように劣等感が強く、世間体や他人の評価を異常に気にする子になります。完璧でないと意味がないと思い、心の中はいつも不安におびえ、周りに嫌われないために相手に必死に合わせようとします。大人になっても自信が持てずに、いつも自分を誰かと比べて落ち込み、相手の顔色をうかがうのに忙しいので「今ここ」を素直に楽しめません。帰ってからも自分の言動が誰かの気に障っていないか悩むことも。また、自分よりも他人を上に位置付けているため、親と似たようなモラハラ気質の人に対しても「全て自分が悪いんだ」と思い、好都合のターゲットにされやすく、仕事や恋愛関係でも苦労することに。

子どもを産んでからは、満たされなかった欲求を子どもで満たそうとしますが、子どもは逆に欲求を満たして欲しい側。思い通りにはならないため、結局は絶対的優位に立つ親が子どもを支配する形になり、毒親の連鎖が子どもへも引き継がれていくのです。

こうした負の連鎖を断ち切るためには、怒りの根底には親や配偶者への行き場のない復讐心があると、まず認めること。「寂しい」、「不安でたまらない」、「誰からも愛されない」など子ども時代に感じていた辛い気持ちをノートに書き出し、「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」と優しく語りかけましょう。犬や猫などの動物は、話せなくても社会の役に立っていなくても、ただかわいいもの。それと同じ優しい目で自分を見てあげてください。

自分に寄り添い、気持ちが満たされていけばいくほど、精神的に自立して他人と境界線を引けるようになり、子どもをひとりの人間として尊重できるはず。毒親やモラハラ配偶者に対しても、自分の気持ちを大切にしていくと、罪悪感を植え付ける相手の言動に違和感を覚えるようになります。まずは、自分の考えや気持ちを尊重して、自分のニーズにフォーカスすることから始めてみましょう。

参考リンク: 『毒になる親 一生苦しむ子供』スーザン・フォワード (著)
英語版
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日本語版
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*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com