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第11回 子どもの行動の背景を探る〜Dr.松浦の診察室から

小児科医が臨床経験と知見をもとに、子育て中の皆さんの不安や迷いに寄り添う情報をお届けします。

第11回 子どもの行動の背景を探る

外来で「どうしてうちの子はこんな行動をするのか」と相談を受けることがあります。かんしゃくを起こす、何度注意しても同じことを繰り返す。そのような行動に戸惑い、つい叱りたくなる場面もあるかもしれません。しかし子どもの行動は多くの場合、何らかの理由に基づいています。それを知ることで、子どもをより深く理解し、適切な声かけや支援につなげることができるとされています。行動分析学や教育の現場では、こうした行動の背景を考える枠組みとして、「行動機能」という考え方が用いられています。今回は、子どもの行動を理解するための4つの行動機能を見ていきます。

行動機能の4つのタイプ

行動の4つの機能は、SEATという略称で紹介されることがあります。これは、Sensory(感覚)、Escape(回避・逃避)、Attention(注目)、Tangible(物・活動の獲得)の頭文字を取ったものです。

Sensory(感覚)
感覚刺激を得る、あるいは整えるための行動です。たとえば、授業中にいすをゆらゆら揺らし続ける子どもがいます。一見すると「落ち着きがない」と見えるかもしれませんが、本人にとっては体の感覚を整えたり、気持ちを落ち着かせたりするために必要な行動である場合があります。また、私が外来で出会った子どもの中には、狭いところに入りたがる子どももいました。体が周囲からぎゅっと包まれるような、いわゆる深い圧刺激を感じるのが好きだったのだと思われます。何でも口に入れたがるといった行動もこれにあたります。

Escape(回避・逃避)
苦手なことや不安な状況から逃れようとする行動です。たとえば、難しい計算プリントが配られた途端に席を立ってしまったり、プリントを破ったりすることです。大人から見ると困った行動に映りやすいですが、本人にとっては、「難しすぎて学習についていけない」という強い不安から、自己防衛のために起こしている場合があります。別の例では、嫌いな食べ物を前にして泣きじゃくるといった行動がこれにあたります。親が「もういいよ」と言って許すと、子どもは「泣けば嫌いなものを食べなくて済む」と学習するため、大人が意図せず回避行動を強めてしまうことにもつながります。

Attention(注目)
周囲の関心や反応を得るための行動です。たとえば、先生がほかの子と話しているときに、急に大きな声を出して邪魔したり、ふざけたりする子どもがいます。こうした一見迷惑に見える行動の裏には、実は「自分を見てほしい」という気持ちが隠れている場合があります。また、家でスプーンを床に落とし、大人が「やめなさい」と言っているにもかかわらず、何度も同じことを繰り返す。これは、ただ相手を困らせたいわけではなく、人とのつながりを求めていて、「関わってほしい」という気持ちの表れである場合があります。このように、注目を得るための行動の背景には、「関わりたい、つながりたい」という深層心理が隠れていることがあります。

Tangible(物・活動の獲得)
欲しい物や好きな活動を得るための行動です。YouTubeの動画を終わりにすると伝えたときに泣いて怒る、おもちゃを取り上げられて怒る、順番を待てないといった行動がこれにあたります。逆に、「嫌いなニンジンを食べたら、あとでデザートが食べられるよ」と言われると頑張れる子どもがいるかもしれません。これも、報酬として得られるものがあることで行動が促される例と考えることができます。

アメリカには、こうした行動の背景を専門的に評価し、支援につなげる仕組みがあります。認定行動分析士(BCBA:Board Certified Behavior Analyst)は、行動分析の大学院レベルの認定資格で、行動分析に基づく支援を行います。また、自閉スペクトラム症やそのほかの発達・知的障害のある子どもに対しては、行動分析に基づく療育として応用行動分析(ABA:Applied Behavior Analysis)が用いられています。これはエビデンスのある支援の一つとして医療現場でも広く取り入れられています。ワシントン州では、診断名や保険によってはこのABAがカバーされる場合があります。

さらに、公立学校では、機能的行動アセスメント(FBA:Functional Behavioral Assessment)と呼ばれる評価が行われることがあります。行動面の困りごとが学習や学校生活に影響している場合、保護者が学校に評価の実施を求めることができます。対象や進め方は学区や子どもの状況によって異なりますが、学校が必要と判断した場合には、BCBAをはじめとした専門家が子どもの行動の背景や機能を評価し、その結果をもとに学校や家庭での支援方法が検討されます。

子どもに「困った行動」が見られるとき、立ち止まり、その意味を理解して対応することが、子どもの安心と行動改善につながります。気になる行動が続くときは、一人で抱え込まず、学校やかかりつけ医、心理士などの専門家に相談してみましょう。

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松浦 有佑
米国小児科専門医。ワシントン大学シアトル小児病院小児発達行動専門フェロー。日本医師免許取得後、日本国内初期研修を経て米海軍病院で勤務。アメリカ医師免許を取得し、2021年からニューヨークのマウントサイナイ病院で小児科専門医レジデンシーを開始。同時にジョンズホプキンス大学で公衆衛生修士課程を専攻。ともに修了し、2024年より現職。NHKワールドや在米邦人チャンネルさくらラジオでラジオドクター等の出演歴あり。共著には『全く英語が話せなかった私のとっておき医療英語勉強法』『ぼくらのリアル!メディカル英会話フレーズ集』がある。2026年に『発達障害を正しく知る』(幻冬舎新書)を刊行。